阿部詩の2回戦敗退を会場で観戦したジェイソン・デイ「オリンピックの見方が完全に変わりました」
4年に一度のスポーツの祭典オリンピック。ジェイソン・デイは前々回のリオ大会の出場権を持っていたが(当時世界ランク1位だった)ジカ熱を懸念し出場を辞退した。前回の東京五輪では出場権を得られず、今回初めてオーストラリア代表として競技に参加する。これまでオリンピックは彼にとって最優先事項ではなかったが、16年の大会を辞退したことを「いまはすごく後悔している」という。そのワケは柔道で金メダル確実といわれた阿部詩が2回戦で敗れたことに起因する。ジェイの心を揺り動かしたものとは?
パリを訪れたデイがもっとも衝撃を受けたのは女子柔道52キロ級の試合を観戦したときのことだった。東京五輪の金メダリストで世界中の柔道ファンが注目する阿部は2回戦でまさかの敗退を喫した。
負けた瞬間、驚いたような表情を浮かべその後顔を覆って抱え立ち上がることもできず号泣。コーチにすがりついて泣き叫び、彼女の声はアリーナ中に響き渡った。その瞬間デイが感じた痛みは「48時間以上消えなかった」という。 「柔道を観て、負けた彼女が発した痛いほどの感情。彼女が崩れ落ちる姿から、国を代表するだけでなくメダルを獲得しようとすることがどれほど意味のあることなのかに気づかされました」 「我々ゴルファーは今週負けても来週また試合に出れば勝つチャンスがある。しかし彼女にとっては4年に1度しかない。もちろん他にも試合はあるけれど、五輪のメダルを獲得するチャンスは4年に一度しかないのです」 「アスリートが敗北を乗り越えようとする感情の発露。それを目の当たりにしてオリンピックに対する自分の感情や見方は間違いなく変わりました。今週ここで競技に出る機会を得られたことに心から感謝しています」 オリンピックのゴルフはともすると軽んじられる傾向がある。メジャー大会には世界のトップが揃うが五輪は世界ランク1位から三桁台まで幅広い層の選手が出場する。真のナンバー1を競うわけではない、というのだ。 しかし地元フランスのマシュー・パボンは「ここ(フランス)ではメジャー勝利より金メダルのほうが価値がある」という。 アスリートが向き合う冷酷で厳しい現実。失敗の痛みがいかに大きいかを物語った阿部の敗戦。見ていて辛い場面も「メダル以上に人々の心に感動を呼ぶものだ」とデイは気づいた。 勝敗至上主義がまかり通る昨今、デイの気づきは五輪の意義を改めて考えさせられるきっかけになった。 ※2024年7月31日15時40分、一部加筆修正しました。
川野美佳