徴用工問題は長期化する? 打開のカギは他問題との「切り離し」
今後もくすぶり続けそうな徴用工問題
徴用工問題について日本側は非常に強い態度で臨んでいますが、それには理由があります。徴用工問題はそれだけでも大変困難な問題ですが、日本の統治下(1910~1945年)で発生した問題に対する請求権一般に波及する危険があります。たとえば、苗字を日本風に変えること(創氏改名)を強制されたことを理由に数千万人の韓国国民から賠償請求が行われるようになれば、日韓関係は破壊されてしまうでしょう。日本としては韓国に対し、1965年に結んだ日韓基本条約と請求権協定の順守を求め、韓国側が解決策を示すよう求めていくほかないと考えます。 一方、韓国側には、あくまで日本に対する謝罪と賠償を求めるべきだという強い国内世論があります。また、その背景には日韓基本条約と請求権協定について、日本側の認識とは違って、韓国の利益が守られていないという考えが根強くあります。これを明言する人はさすがに少数ですが、このような考えに同調している人は多数に上るといいます。さらに、文在寅政権は曹国(チョ・グク)前法相による職権乱用問題で強い批判にさらされています。これらの政治状況にかんがみれば、文政権が取り得る対応は非常に限られており、徴用工問題は、客観的に見れば、今後も長期間くすぶり続ける可能性があります。 徴用工問題はこれまで日韓関係を悪化させてきた最大の問題ですが、解決の困難性を考慮すれば、今後は両国関係の他の諸問題から切り離していけるかが日韓関係改善の重要なカギとなります。そのためには、たとえば韓国に対する輸出規制の問題について、徴用工問題と関連付けることなく、両国の輸出当局間で解決を目指していくことが肝要だと考えます。
----------------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹