郷里の実家にひとり住まいの兄、死去…都内に家族で暮らす弟が思わず叫んだ、兄の遺言書の「まさかの内容」
多死社会の日本では、日々多くの相続が発生している。亡き人への感謝や感動がある一方で、割り切れない思いをするケースも…。ある60代の兄弟の事例をもとに、実情を見ていく。 【早見表】国民年金・厚生年金「年金受取額」分布…みんな、いくら年金をもらっているのか?
実家を出た二男は家庭を築き、実家にとどまった長男は独身
高齢化が進展する日本では、日々多数の相続が発生している。しかし、相続はスムーズに資産承継できるケースばかりでなく、しばしばトラブルを引き起こすことがある。 60代の山田さんは、亡くなった兄の相続で、いまも納得できない思いを抱いている。 「3歳年上の兄が亡くなりました」 山田さんは兄と2人きょうだい。二男の山田さんは結婚して家庭を築いているが、長男の兄は独身だった。また、山田さんの両親は10年前、9年前に相次いで亡くなっている。 「兄とは険悪な関係ではありませんでしたが、若いときからほとんど交流がありませんでした」
関西の実家を離れた二男、生活拠点を東京に
山田さんは関西の出身だが、進学・就職のために上京した。その後は生活の拠点を東京に移し、東京郊外にマンションも購入した。 一方の兄は、長男ということで大切にされ、長年にわたって関西の実家住まい。就職先で身につけた技術をもって独立したものの、仕事はあったりなかったりのようだった。しかし、実家が裕福で収益不動産を所有しているため、食べていく分には困っていないようだった。 「私は兄と2人きょうだいですが、兄は跡取りということで大切にされ、私はかなり〈ぞんざい〉に扱われてきました…」 しかし、社交的で明るい山田さんは、都内の有名私立大学に進学すると、そこでたくさんの友人を得た。20代前半で大学の同級生と結婚したが、妻の親族が温かく接してくれ、そこに自分の居場所を見出したという。 「兄は別に性格が悪いわけでもなく、普通の人です。べつに仲が悪かったわけではないのですが、親の扱いに差があり過ぎました。そのせいで、親しくなれないまま大人になってしまい、その後は交流が途絶えがちになりました」
「お兄ちゃんには面倒をかけられないから」と母が…
山田さんの兄は内向的なタイプで、新しい人間関係に飛び込むのが苦手だった。そのため、会社員が性に合わず、結婚することもなく、ずっと母親に身の回りの世話をしてもらって生活していた。 「母は〈お兄ちゃんは芸術家タイプだから〉といっていたましたが、それはちょっとわからないですね。結局、母親は生涯にわたって兄の世話をしました。両親の介護ですか? 兄はまったくしていませんよ」 山田さんの父親は10年前に脳梗塞で倒れて入院。1ヵ月後に回復の兆しのないまま亡くなった。母親は父親が亡くなる数年前からがんを患っていたが、一時は手術で回復し、これまで通りの生活を送っていた。しかしその後、次第に病状が悪化。自宅療養はせずに総合病院へ入院し、その後はホスピスへ。父親が亡くなった1年後、あと追うように亡くなった。 「〈お兄ちゃんには面倒をかけられないから〉というのが母の口癖でした。それに、母親はちゃんと、相続税が払えるぐらい現金を残していましたよ」 山田さんの両親は遺言を残していなかったが「全財産をお兄ちゃんに」と常々聞かされていた。山田さんも、自分が財産を相続するより、兄が自宅と収益物件を持っていれば生活が安定するので、それで納得した。 「正直な話、兄は独身ですから、その後は自分か、そうでなければ私の子どもに財産が戻ってくると思ったのですよね…」