"検察官の主張の多くは立証に問題" それでも殺人事件の犯人と認定した裁判所の判断ポイントはどこに? 無罪を主張した被告に懲役16年判決
大阪地裁「常識的に考えて被告人以外の犯人を想定することができない」
そして迎えた、9月27日の判決。 裁判官3人と裁判員は、山本被告が「有罪」であるという結論を下した。 「検察官の主張する各間接事実を検討した結果、その相当部分(多くの部分)は、弁護人の主張する通り、検察官の立証に問題があり、被告人が犯人であることを裏づける事実関係として採用できないが、一部の間接事実は疑いをいれずに認定でき、その間接事実を総合して推認することにより、常識的に考えて被告人以外の犯人を想定することができず、被告人が本件の犯人だと認めることに、合理的な疑いをいれる余地はないと判断した」 山田裕文裁判長は言い渡しの序盤で、有罪と判断した根拠の骨子をこのように説明した。 裁判官と裁判員は、検察側が立証の柱にしていたドラレコ映像に映る犯人と被告との「身体的特徴の合致」や「着衣の類似性」について、“それらをもって犯人性を基礎づけようとする検察官の主張は無理がある”と判断した。 加えて、殺害された平山さんが、被告以外の人物(たとえば勤務先の関係者)とトラブルを抱えていなかったかという点について、「捜査が不徹底だったとする弁護人の指摘は、理にかなったものが相応に含まれる」と言及。「他にトラブルがなかったとは言い切れない」とした。 さらに「弁護人が強調する通り、現場住宅街には、防犯カメラやドライブレコーダーに映ることなく犯行現場にたどり着ける可能性がある経路が、複数存在した疑いがある」と認め、「犯人は住宅街の住民だとする検察官の主張は、基本的な部分で大きく破綻している」とまで言い切った。
鍵となった「センサーライト」の点灯状況
ここまで検察側の主張を退けた上で、なぜ「有罪」なのか。鍵となったのは「センサーライト」だった。 被害者の平山さんが向かおうとしていた知人女性宅には、人物などに反応するセンサーライトが設置されていた。そして、知人女性宅と被告の当時の自宅は、袋小路の中にあり、被告宅の方が“奥”にあった。 つまり、被告宅からT字路に出るには、女性宅の前を必ず通らなければならず、基本的にセンサーライトが反応することになる。そしてT字路と平山さんが殺害された現場は、極めて近い。 そして、平山さんが殺害される40秒ほど前にセンサーライトが点灯した。そして、その約17分前にもセンサーライトは点灯した。 裁判官と裁判員は、この事実と、被告の“見張りのために玄関先まで出ていた”とする供述を照らし合わせて精査。「重大犯罪に及ぶ前の犯人が、袋小路内の住民=山本被告に不審に思われる危険をおかして、2回もセンサーライトを点灯させるなどというのは想定しがたい」=「センサーライトの点灯を生じさせた者は被告以外に考えられず、被告を本件の犯人とみるほかない」と断じたのである。 ドラレコ映像から導き出される犯人の動きから考えると、“山本被告が犯人であるなら、あと2回センサーライトが点灯していなければ不自然”という見方も想定され、この点は弁護人も公判で主張していたが、判決では「通行方法が駆け足であれば、点灯しないこともある。犯行前後の焦燥感を伴う移動だと想定されることを考慮に入れれば、センサーライトを通過する際に駆け足であっても特段不自然ではない」とされた。 そして、被告と、隣人女性および平山さんとのトラブルという動機面については、裁判官と裁判員は「山本被告や当時の被告の妻は、住宅ローンを組んで購入した自宅からの転居の検討を余儀なくされるほど、深刻な状況に追い詰められていて、些細なトラブルだとはいえなかった」として、殺害動機になり得るとした検察側の主張を支持。「(センサーライトの点灯状況に基づく)山本被告が犯人であるという推認を補強する」とした。 無実を訴え続けていた山本被告だったが、有罪判決を前にしても、身じろぎせず証言台の前の席に座っていた。 弁護側は控訴する方針で、裁判の舞台は大阪高裁に移る見込みだ。 (MBS大阪司法担当 松本陸)