「宗教」を深く理解するための、超重要なキーワード「シンクレティズム」をご存知ですか
融合、混成、ごたまぜ
人間の営みの根底を支えている「宗教」という不思議な存在。宗教について知ることは、世界を知ることにつながります。 【写真】天皇家に仕えた「女官」、そのきらびやかな姿 宗教を学ぶとき、「宗教どうしの関係」を解きほぐしながら知識を得ると、学びはいっそう深いものとなります。そんなさまざまな宗教の関係について知るうえで便利なのが、『儒教・仏教・道教』(講談社学術文庫)という本です。 著者は、東洋大学教授の菊池章太さん。比較宗教史が専門で、『儒教・仏教・道教』では、この3つの宗教の関係をわかりやすく解きほぐして解説しています。 本書のキーワードは「シンクレティズム」。この言葉を知ると、宗教についての理解がグッと深まるといいます。なぜそうなるのか、『儒教・仏教・道教』より引用します(読みやすさのため、改行などを編集しています)。 *** シンクレティズム(syncretism)という言葉がある。 融合、混成、ごたまぜ、という意味である。神仏習合というときの「習合」を英語ではこう言う。あまりいいニュアンスでは使わない。 シンクレティズムの語源は「クレタ島の人」である。 エーゲ海に浮かぶクレタ島。現在はギリシアに属しているが、アジア、アフリカ、ヨーロッパのどこからも手がとどく場所にあるため、古代からさまざまな民族によって、とったりとられたりをくりかえしてきた。強大な敵にそなえるためには、いがみあう勢力でも手をにぎりあうしかない。しばしばごたまぜ混成クレタ同盟を結成した歴史がある。 すぐにまざりたがるやつら──これがシンクレティズムの大もとの意味である。その背景をかえりみればやむを得ないことではあるが、やはり肯定的な言葉ではない。 ヨーロッパの歴史を語るとき、この言葉がひときわ多く用いられるのは古代末期である。アレクサンダー大王の東方遠征のあと、古代地中海世界にオリエントの文化がなだれこんできた。えたいの知れない宗教が乱立し、対立し、融合をくりひろげた時代である。やがてユダヤ教に反逆したキリスト教がそこに加わって、くんずほぐれつしたあげくローマ帝国の国教となっていく。 そこにいたるまでの諸宗教のシンクレティズムにはすさまじいものがあった。あがきのはての断末魔であった。それは同時に新しい時代へ向かう産みの苦しみでもあるのだが、どちらかといえば末期症状として捉えられている。 フランスの頭脳が集結したコレージュ・ド・フランスには、「古代末期のシンクレティズム」という講座がある。もちろんこれはシンクレティズムに積極的な意味づけをあたえようとの意図にもとづいて開講されているのだが、ことさらに意味づけをあたえねばならないほど、堕落したなれのはてと見なされてきたわけだ。 シンクレティズムとは宗教の「なれのはて」なのか? どんな宗教もみずからの純粋を主張する。しかし現実には、外部からなんの影響もこうむっていない宗教など(きわめて古い時代は別として)はたしてあるのだろうか。シンクレティックでない宗教というのが世のなかに存在するのか。……もっと進めて言いたい。 シンクレティズムこそ宗教の現実の姿ではないか。 *** シンクレティズムという考え方から宗教を見る。これまでとは違う、宗教の側面が見えてきそうです。 さらに【つづき】「キリスト教の「プロテスタンティズム」とはなんなのか? その立ち位置を、深く理解するための「一つの考え方」」の記事では、シンクレティズムの視点をもちいて、キリスト教について考えていきます。
学術文庫&選書メチエ編集部