「洋上風力」普及に弾み…基礎工事を低コスト化、“剛短杭”千葉・秋田で海域調査
地盤試験所(東京都墨田区、山本伊作社長)は、洋上風力発電所の建設に向けた地盤調査試験を千葉県と秋田県で実施した。洋上風力を低コストに建設するための設計データを得るのが目的。日本には、洋上風力の基礎工事で低コスト化が期待できる「剛な短い杭(剛短杭)」を採用した事例はなく、これから本格化する洋上風力の普及に弾みが付きそうだ。(根本英幸) 【写真】秋田・大潟村の干拓地に再現した秋田沖の海底地盤 再生可能エネルギーの拡大に向けて期待される風力発電。太陽光発電と違い、夜間も発電できるのが強みだ。ただ、陸上は風力の開発が進んだことで適地が減り、今後は大幅な拡大は望めない。一方洋上風力は実証事業が主体で、本格的な導入拡大に至ってない。 このため、国は再エネ海域利用法に基づき国が定める「促進区域」での事業者の選定を始めた。第1弾として「秋田県能代市・三種町・男鹿市沖」「秋田県由利本荘市沖」「千葉県銚子市沖」を公募した結果、2021年末に3海域とも三菱商事や中部電力子会社のシーテック(名古屋市緑区)などの企業連合が落札した。 地盤試験所が受託したのは、この3海域の地盤調査。風車やタワーを支える基礎に、欧州で一般的な「剛短杭」の採用を検討しているためだ。欧州では直径10メートルの鋼管杭を海底地盤に30メートル程度と短く(浅く)埋めて安定させる。日本で使われてきた十分な長さを埋める「長杭」とは設計思想が大きく異なる。高野公作取締役は「杭を短くしても倒れない設計手法を確立する」と説明する。 ただ海底地盤での基礎杭の載荷試験は、技術的に難しくコストもケタ違いに大きい。このためボーリングやコーン貫入試験(CPT)で海底地盤を調査。割り出したデータと同様の陸上地盤を探し出し、洋上環境を再現した状態で試験を行った。 例えば秋田県の2海域は、同県大潟村の旧八郎潟干拓地の地盤が類似しており、干拓地の農地を借りて実施した。千葉県銚子市沖は、同市内の千葉科学大学の駐車場の地盤が似ており、同様に借りた。山本社長は「地盤試験では騒音が発生するため、銚子の場合、大学が春休みの間に済ませた」と振り返る。 試験は基礎の上に構築する風車やタワーなどの重さに、杭が耐えられるかを評価する。杭の鉛直支持力を調べる衝撃載荷試験と急速載荷試験、さらに2種類の水平載荷試験を実施した。 試験杭は直径10メートルの実物大ではなく1メートル、1・5メートル、2メートルの3種類を用意し、地盤への埋め込み長も4―12メートルとさまざまな長さで試し、杭の挙動の違いを確認した。さらに最大杭径2メートルでの試験結果について、直径10メートルの実物大の解析に用いる妥当性を検証。実験の結果、問題ないと判断した。 山本社長は「杭を短くできれば洋上風力のコスト削減に貢献できる」と見込む。24年には第2弾公募である「秋田県八峰町・能代市沖」「秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖」「新潟県村上市・胎内市沖」「長崎県西海市江島沖」の結果も出そろった。第3弾以降も含め、案件獲得に力を入れる方針だ。