梅田の地下に大阪らしい肉うどん〝エロかっこいい〟食感の麺 甘じょっぱい牛肉とやさしいダシのバランスが実にいい「踊るうどん」
【肉道場入門!】絶品必食編 関西の肉といえば牛肉。そして大阪といえばうどんである。 関西はまだ肉食が解禁される以前から、但馬(兵庫)や近江(滋賀)などで肉食文化がひそかに勃興した地。そして大阪といえば、豊臣秀吉が大坂城を築城する際、近くの砂場(資材置き場)に人足の腹を満たす、うどんの屋台が立ち並んだ〝路麺〟発祥の地でもある。 だからこそ大阪では肉うどんが好まれてきた。大正時代には大衆食堂で太刀魚の定食などと並ぶ、人気メニューだった。 現代に至るまで大阪のうどん店では無数の肉うどんが生まれてきた。大阪はだし文化の街だが、近代のうどんは、よりわかりやすい味わいを打ち出す店が多い。具にしっかりした味をつけ、だしも昆布のほか鰹節などで味の骨格を作り込む。麺にコシはあるが伸びと軟らかさという喉越しのよさも忘れない。 そして最近、梅田の地下で出会った肉うどんが実に大阪らしい味わいに満ちていた。店名は「踊るうどん」。調べてみると大阪の滝井(守口市)で20年以上続くうどん店だ。 本店も梅田店も看板の具材は肉、まいたけ天、それにみんな大好き温玉。うどんの仕立てはぶっかけ(冷)、生じょうゆ、かまたま、かけ(温)の4種類あるが、大阪ではほとんどかけ一択なので注文は「肉まいたけ天温玉」のかけとなる。 昼時に15人は並んでいた行列の最後尾につけたが、並ぶ間におばちゃんからパパッと品書きを渡され、次の巡回時にはもう注文。15分後には店内に着座していて5分も待たずにうどんが提供された。 目の前に置かれたのは丼のなかで具と麺とつゆの魅力が絡み合った小宇宙。うどんはいかにも三重県産と北海道産のブレンドらしい伸びとコシが両立した精妙なバランス。硬くなく軟すぎず、いうなれば〝エロかっこいい〟食感で口内から喉にかけて、まさに踊るように落ちていく。甘じょっぱく柔らかく炊かれた牛肉とやさしいだしとのバランスも実にいい。 梅田の大阪駅前第三ビルといえば、のれんを畳んだ名店「はがくれ」があったうどんの聖地のような場所だ。同じビルの飲食店街で味わう、大阪うどんの進化形。薄衣のまいたけや温玉との組み合わせで味わいはますますめくるめく。次は本店へ足を伸ばしたい。
■松浦達也(まつうら・たつや) 編集者/ライター。レシピから外食まで肉事情に詳しい。新著「教養としての『焼肉』大全」(扶桑社刊)発売中。「東京最高のレストラン」(ぴあ刊)審査員。