ライフサイエンス育成と社会実装―今枝副大臣に聞く文科省の役割と注目の政策
ライフサイエンスとは「生物が営む生命現象の複雑かつ精緻なメカニズムを解明することで、その成果を医療・創薬の飛躍的な発展や、食料・環境問題の解決など、国民生活の向上および国民経済の発展に大きく寄与するもの」として注目を浴びている。国を挙げてさまざまな分野で研究や社会実装(得られた研究成果を社会問題解決のために応用、展開すること)の支援などを行っている。このうち文部科学省(以下「文科省」)は、理化学研究所、科学技術振興機構、大学などの機関における基礎的・先導的な研究の推進や研究支援業務などを実施している。ライフサイエンスの育成と社会実装に文科省が果たしている役割や注力している政策などについて、今枝宗一郎文科副大臣に聞いた。
◇「理系」だけでなく「文理融合」人材も育成を
ライフサイエンスを発展させるためには人材育成が非常に重要で、理系人材を増やすための施策を推進しています。ただ、理系の研究者だけを育成すればよいというものではありません。社会実装のためには起業家も育てる必要があり、「文理融合」人材も含めた育成が非常に重要と考えています。 具体的には「アントレプレナーシップ(起業家精神)教育」を一気に広げます。会社を興すことが目的の人だけではなく、研究者にもアントレプレナーシップは必要です。今の社会がどうなっていてこれからどうなるべきか、そのギャップを埋めるためにどのような研究をすればよいのか――。そうしたことについて、まず未来像を描いて未来から現在にさかのぼりつつ実現のための道筋を描き出す「バックキャスト」の戦略的な考え方が研究者にも求められます。研究者はもとより、サラリーマンであっても主婦/主夫であっても、そのような考えに基づき“自分の人生”を生きることを学ぶのがアントレプレナーシップ教育です。 文科省は、スタートアップ(革新的なアイデアで短期的に成長する企業や新規事業)創出の基盤となる人材をさらに増やすとともに多様性を高めていくため、2023年に「起業家教育推進大使」を任命し、広報活動や講演などを通じて人材育成に協力してもらっています。 ただ、任命した大使はわずか10人で、セミナーや出前講座などの参加者も1年間で900人しかいません。理想は幼児教育から大学院まで、それぞれの発達・レベルに応じたアントレプレナーシップ教育を行っていくべきで、そのためには大使を1000人に、参加者も900万人という規模にしていかなければいけないと考えます。