アマとプロ、マネジメントの共通点と相違点とは。元高校サッカー指導者がJリーグに挑戦して感じたこと【町田快進撃の秘密⑤】
常勝軍団、青森山田高校からFC町田ゼルビアの監督に転じ、わずか1年でJ2からJ1に昇格、そして2024年J1での大躍進させた名将、黒田剛監督。著書『勝つ、ではなく、負けない。』の刊行記念トークイベントで太田宏介氏と対談した連載5回目。 【写真】トークイベントの様子
プロに転向したのは、高校サッカー指導者の光になるため
―――2022年秋、常勝軍団・青森山田高校サッカー部監督を辞し、翌シーズンから、当時J2リーグに所属していたFC町田ゼルビアの監督に就任することが発表されたとたん、黒田氏は多くの批判の声にさらされた。「Jリーグを甘く見ている」「高校とプロとでは違う」「結果が出せず、すぐに解任されるに違いない」。 非難を覚悟の上でプロの監督に転身した理由について、黒田氏は著書の中で、次のように述べている。 「プロで結果を残せたら、高校サッカーを指導する者のキャリアの選択肢が増え、プロの世界に挑戦したいと考えている指導者の希望の光にもなる、その可能性を広げたい」。 いうまでもなく、高校サッカーチームの監督は、ごく一部を除いて、教員が務めている。教員として多忙を極める中、家庭や私生活を犠牲にして、活動に携わっていることがほとんどだ。スポットライトが当たるのは、インターハイや全国高校サッカー選手権といった大舞台くらいで、大半の監督やコーチは、名前が世に出ることがない。そんな高校サッカーの指導者の光になるべく、黒田氏はプロの世界に挑戦したとも言えよう。 2年前のおおかたの予想は見事に覆された。2022シーズンは20チーム中15位と低迷していたFC町田ゼルビアは、2023シーズン、圧倒的な強さで優勝。2024シーズンはJ1に舞台を移し、現在トップ争いを続けている。 黒田氏の手腕は、プロでも立派に通用することが証明されたわけだが、高校サッカーチームとプロチームの率い方に、何か違いはあるのだろうか。
アマとプロは、目的は違っても手段は同じ、そこから未来は開ける
太田 黒田さんがFC町田ゼルビアの監督になって今シーズンで2年目、高校サッカーからプロの指導者になって、どんなところに一番違いを実感されていますか? 黒田 私は、高校生だけでなく中学生のサッカーも少し見ていましたし、青森山田中学校の副校長もやっていましたけれど、学生サッカーでベースとなるのは、教育または育成です。彼らは、ゆくゆくはプロになりたいとか、強豪の大学でサッカーをやりたいなど、夢を抱いている子たちが大半なので、厳しく接しながらも、彼らの夢に寄り添いながら育成していく、それが最高に楽しかったんですね。子供達からは本当にたくさんの学びや感動をいただきました。 それに対して、プロというのは自分に責任があり、必要とされなければクラブを去らなければなりません。自分の人生をかけ、家族や子供など守るべきものがあって、またファンやサポーターの想いにも全力で応えていかなければならない。そうした重圧を背負ってサッカーをしているわけです。ですから、まずはそんな選手たちをリスペクトし、彼らが自分の生涯をかけてサッカーに取り組んでいるという生き様や覚悟を尊重しながら、誠実に寄り添っていくことを考えなければいけないと思っています。 だけど、(学生もプロも目的達成の)手段としては「勝つ」であることは変わりません。勝った方がいいし、強い方がいいし、それによって自分の人生がよりいっそう輝いたり、プロとしての道が開けたり、日本代表にまで登り詰める可能性も広がります。 つまり、組織づくりも含め、手段は一緒だけれど、目的や求められることは大きく変わるということ。そんな解釈にたどり着いたというのが、この1年半だったと思います。 黒田剛/Go Kuroda 1970年生まれ。大阪体育大学体育学部卒業後、一般企業勤務等を経て、1994年、青森山田高校のコーチとなり、翌年教員、そして監督に就任。以降、全国高校サッカー選手権26回連続出場、 同大会を含む計7回の日本一という偉業を達成する。2023年、FC町田ゼルビア社長、藤田晋氏に請われ、同チームの監督に就任。2023シーズンの優勝、J1昇格に導く。 太田宏介/Kosuke Ota 1987年東京都生まれ。ジュニアユース年代をFC町田(現・FC町田ゼルビアジュニアユース)で過ごし、2006年、横浜FCでプロデビュー。その後、オランダのSBVフィテッセやFC東京など国内外のチームを経て、2022年、FC町田ゼルビアに加入。2023年のJ1昇格に貢献し、現役を引退。現在、チームのアンバサアーとして宣伝担当を担い、解説やサッカー教室など幅広く活動する。
TEXT=村上早苗