「定年後の仕事はつまらない」という大誤解…じつは仕事満足度や幸福度が高かった
「大きな仕事のみに社会的な意義がある」という誤解
最後に掲げたいのは、「大きな仕事のみに社会的な意義がある」という誤解である。 無意識のうちにこうした誤解を抱いている人は多い。そうではなく、施設の管理人の仕事や小売店の販売員の仕事など、多くのシニアが就いている「小さな仕事」が私たちの日々の生活を支えていて、実際に日本経済にも大きく貢献しているのは紛れもない事実である。そして多くのシニアはこうした仕事で無理なく働きながら、幸せな定年後の生活を送っている。 社会には、大企業のホワイトカラーなどが望ましい仕事で、こうした「小さな仕事」は取るに足らないものだというような無理解があるのではないだろうか。こうした誤解はとても危険な誤解だと考えるのである。 むしろ、日本社会はこうした「小さな仕事」の価値を積極的に認め、かつ尊重する社会になっていくことはできないのだろうか。また、消費者側も「小さな仕事」で働き続ける人に対して相応の対価を支払っていくような世の中にならないものなのだろうか――。 本稿では、定年後の代表的な誤解を7つにまとめて解説してきた。 1. 「死ぬまで働かないといけない」という誤解 2. 「定年後は仕事を選べない」という誤解 3. 「いつまでも競争に勝ち残らなければならない」という誤解 4. 「仕事に関する能力はいつまでも向上していく」という誤解 5. 「定年後の仕事はつまらない」という誤解 6. 「定年後の仕事にはもはやお金は関係ない」という誤解 7. 「大きな仕事のみに社会的な意義がある」という誤解 定年後の仕事には様々な誤解がある。そして、こうした数々の誤解が高齢期に安心して働ける環境を妨げているという現状があるのではないかと考える。 これからの日本社会において、だれもが高齢期に安心して暮らせるためにどうすべきかを考えたとき、企業や政府に人々の高齢期の生活のすべてを保障させる「福祉大国論」が望ましいものになるとは思えない。 また、すべての人が生涯にわたってスキルを磨き続け、競争に勝ち残らなければならないという「自己責任論」に答えがあるとも思えない。 そうではなく、いつでもだれでも無理のない仕事で適正な賃金が得られる市場環境をいかに整備していくかという視点が何より大切なのである。 超少子高齢化社会に突入する日本社会において、定年後の無理のない仕事と豊かな消費生活をどう両立していくか――。日本全体で若者が急速に減少し、高齢者がどんどん増えていく中、人も社会も変わっていくことは避けられないだろう。 つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)