《渡辺恒雄さん追悼》田原総一朗氏が明かす「安倍晋三・元首相も怖がっていた」素顔
石破首相に「情けない」と思っているのではないか
渡辺氏が長く主筆を務めた読売新聞は独自の「憲法改正試案」を発表するなど、「憲法改正」を正面から社論に掲げている。 「同様に、日米地位協定も撤廃しなければならない。地位協定こそ、日米が対等ではないという関係の象徴的なものだったからです。そういう想いのなか、米国は姿勢を変え始める。世界の警察であり、パックス・アメリカーナだった。その体制維持を諦めるという方向に舵を切った。それはどんどん進み、バイデン大統領は日本の岸田文雄・首相(当時)に、西側の安全保障は米国一国では賄いきれないとして、日本に協力を求めてきた。それが今の防衛費増強の元になったことです。 これで日本の発言力は高まります。渡辺さんの直接的な動きではないが、長年取り組んできたものが一歩前進しているという状態です。加えて来年からトランプ大統領になる。トランプはアメリカ・ファーストを掲げており、恐らくウクライナからも手を引くでしょう。この流れは、パックス・アメリカーナからの脱却をさらに強める。日本の軍事力にも頼る割合は高まります。渡辺さんの求めてきた、あるべき日本の姿の方向に動いているのです。 ただもう一つの日米地位協定については、なかなか動かない。石破茂・首相が総裁選で、地位協定の廃止に言及はしたが、首相になった途端にそれを引っ込めた。渡辺さんからすれば、『情けない』というふうに映ったでしょう。 ともかく、これで日本の軍事力も高まり、今よりも日米関係は対等なものになっていく。その方向は渡辺さんの望むものだった。ただ石破首相が弱腰になったことで、地位協定の行方が分からず、その点は渡辺さんも忸怩たる思いで亡くなったのではないでしょうか」
会合に呼ばれなくなった
渡辺氏は故・安倍晋三元首相の「政治の師」だったことでも知られる。2人は頻繁に会談を重ね、安倍政権時代の2017年5月3日、読売新聞は「憲法改正 20年施行目標 9条に自衛隊明記」の大見出しで安倍氏のインタビューを掲載した。安倍氏はそのなかで改憲の具体的内容に踏み込み、国会で質問されると、「自民党総裁としての考え方は相当詳しく読売新聞に書いてありますから、ぜひそれを熟読していただいてもいいだろう」と答弁した。 「安倍さんの政治方針は、渡辺さんと一致していたというのは、間違いないでしょう。ただ安倍さんは渡辺さんを怖がっていたところがあったようで、あまり直接の交流はないと思います。安倍さんも、渡辺さんに対して、怖くて話せなかったんじゃないか。 しかし、憲法改正について考えは同じだったし、地位協定に関しても安倍さんは撤廃を望んでいたと思う。ただ、地位協定撤廃を唱えれば、すぐに米国から潰されるので、手を出せなかったんでしょう」 渡辺氏がかかわった政界工作の中で、とくに衝撃を与えたのが福田康夫政権時代の自民党と民主党の大連立構想だ。実現はしなかったが、福田首相と当時の民主党代表・小沢一郎氏の間を仲介し、小沢氏に連立を持ちかけたのは渡辺氏だった。 「これも根本は同じです。日本を米国と対等にするため。そのためには日本の政治が強くなければならない。あの時は自民党も弱っており、日米関係でも日本の発言力も弱っていった。それではまずい。だから大連立で日本の政権を安定化させ、日米関係も対等にさせる。大連立となれば、憲法改正にも一歩近づきます」 渡辺氏は政治評論家などを集めて「山里会」と呼ばれる勉強会を主宰。言論界に影響力を及ぼすと同時に、政治家にとっては「山里会」にゲストで呼ばれることが、渡辺氏に“一人前”と認められるための登竜門とされていたが、田原氏は批判的だ。