なぜ赤ちゃんは人の顔をジーッと見るのか…生まれて間もない乳児の脳内で起きているすさまじい発達
■じーっと他人を見るワケ 赤ちゃんが手を合わせる動作についても見てみよう。ある時期、赤ちゃんが自分の手を不思議そうに眺め、頻繁に両手を合わせたりしだす。これは、ハンドリガードといわれる動きで、3カ月齢頃でよく見られる。 この時期を過ぎると、ある変化が起こる。赤ちゃんは自分の手を見ずとも、ちゃんと到達運動ができるようになるのだ。ということは、おそらく、ハンドリガード期(2.5~4.5カ月)に、自分の手や腕の動きをコントロールする情報処理能力を獲得しているのだろう。 動物実験でも同じように、手をじっと見ることで、のちに自己受容感覚を利用した行為ができることが示されている。どうやら赤ちゃんは、偶発的で受動的な経験のみを通じて学習するのではなく、かなり早期の段階で、視覚と自己受容感覚の統合を行っているのだ。 赤ちゃんが、よく、他人をじーっと見ていたり、同じような動作をしようとする様子を見かけたことがないだろうか。脳波の研究では、6カ月頃の赤ちゃんが他者の動作を見ているとき、運動野の活動が増えることがわかっている。 『脳の本質』第2章では、他者の動作の理解には、運動野の一部にあるミラーニューロンが関わっていることを紹介したが、すでに生後半年ほどで、ミラーニューロンが機能している可能性がある。 ■見ているのは動作だけではない 手を振る、はいはいする、歩くなどを赤ちゃん自身ができるようになると、他者が同様の運動をしているのを見るだけで、赤ちゃんのミラーニューロンが働くようである(図表3)。 これは運動共鳴ともいう。つまり、自分がある運動ができるようになると、他者がその運動をしているのを見るだけで、その運動を認知できるようになり、他者の動作を模倣するようになるのだ。幼児同士は互いに模倣し合い(相互模倣)、感情を共有することによって、社会性を身につけていく。 もしあなたが、道端で誰かがしゃがみ込んでいるのを見かけたとする。その人は、地面の一点を見ながら、親指と人差し指をそこに近づけようとしている。あなたは、その人がこれから、何かを拾おうとしていると思うだろう。そう、他者の動作(のゴール)を予測しているのだ。これも、ミラーニューロンの働きによる。 北海道大学認知神経科学の小川健二と筆者(乾)は、ミラーニューロンが他者の動きの細かな軌道ではなく、目的を達成するための方法に対して反応していることを明らかにした。 物をつかむ動作であれば、それが右手なのか左手なのか、あるいはどのようにつかむのかに関係なく、ミラーニューロンは反応する。そう、他者がどのように動くかではなく、何をしようとしているかを分析しているようだ。