佐賀に新大学は必要?「県内進学率16%」の危機感、少子化や定員割れでも大学を作る意味はあるのか
■地方大学が淘汰されて起きること 定員割れだと「誰でも入れる大学」「Fラン(入学者の基礎学力が十分ではない偏差値の低い大学を称する)」などと揶揄する声もある。今村氏は、経営努力や教育改革が必須であることを前提にしつつ「本当に人口減少、少子化だからといって、地方の大学は淘汰されて消えてなくなってもいいのだろうか」と語る。 今村氏が学長を務める佐賀女子短期大学では、就職率が100%、うち地元就職率が79%となっている。卒業生の進路は、介護福祉士や保育士、幼稚園教諭、養護教諭、小学校教員のほか、企業に就職する学生もいる。介護福祉士の大半は、留学生となっている。
「彼女たちがいなくなったら、皆さんの老後は大丈夫ですか? 保育士が確保できないために保育園を閉園することも起こりうる。大学が果たしてきた役割を評価せず、定員充足率や経営状況、偏差値といった視点でしか見られないのはいかがなものか」(今村氏) そのうえで「高等教育を卒業した人たちが地方で活躍をすることこそが、地方創生にとって大事」と続ける。 少子化で大学経営が厳しくなる中、文部科学省は大学新設や学部増設に対し「原則抑制」で設置基準をより厳格にしている。以前に立命館アジア太平洋大学の新設に関わった今村氏は「当時と比べものにならないくらい厳しい」という。
「学生確保の見通しについて示すために高校生にアンケートを実施し、『第一志望として受験するか』という数がどれくらいかということが重視されている。無名の大学にとっては極めて厳しいハードルだが、やらなければならない」(今村氏) ■地方大学の多くが小規模の私立 大学開校に向けて武雄市は、これから受け入れ準備を加速する。小松市長は「地方創生に即つながるわけではない」としながらも、「“まちは大学とともにあり、大学はまちとともにある”という発想が大切」と語る。
「まずは、市民に新大学について理解を深めてもらえるよう対話を続けていく。開学後に学生が地域の文化や産業に関心を持って学べるように、企業や地域などに主体的に大学に関わってもらえるように、産業や地域住民と大学をつなぐ役割を果たしていきたい」(小松市長) 地方大学というと国立大学やマンモス私立大学にフォーカスされがちだが、実際は小規模の私立大学が圧倒的に多い。人口減少と少子化の中、学生募集に取り組んでいるのが実情だ。今村氏は「地方大学への見方はやはり厳しいが、県内でも大学や就職先を選べる、当たり前の選択肢を作りたい」と意気込む。
新たな地方大学創設を「定員割れ」「赤字」「Fラン」で無用とみるか、それとも地方創生の人材育成の場とみるか。多くの期待と課題を背負いながら、佐賀で新大学設立の準備が着々と進んでいる。
鈴木 款 :教育アナリスト