りくりゅうが築くペア新時代 「感慨深い」全日本制覇で見せた本物のたくましさ
【後半戦へ自分たちを超えていく】 翌日のフリーでりくりゅうは、『Adios』の叙情的な旋律に乗って、リンクを舞っている。スペイン語で「さよなら」の意味で、その決別は野心的に挑む思いを歌っているが、何より彼らの演技はたくましかった。 たとえば、木原のトーループがステップアウトになり、3回転トーループ+ダブルアクセル+ダブルアクセルを取りこぼしたが、むしろ、そこから集中力を高めた。 最初のリフトはレベル4、スロージャンプは3回転ループを成功。スピンもレベル4で、サイドバイサイドで3回転サルコウもみごとに決めた。次のリフトも華麗でレベル4だった。スローでの3回転ルッツ、3本目のリフトもレベル4、最後はコレオで作品を仕上げた。 「序盤にミスがあっても、引きずらずに演技ができたのはよかったなって。大きな得点源はなくなってしまいましたが、今シーズン一番高い点数をもらえました。これは後半戦に向け、大きな自信になると思います」 三浦はそう振り返っている。彼女は淡々としたなかに熱さを内包させ、寛容で明るい強さがあった。演技直後、「疲労と申し訳なさで立てなかった」とひざまずいた木原の頭を優しく撫でた。 シーズン後半戦に向け、りくりゅうはプログラムを通してさらに滑り込むという。トランジションの改善や靴の変更など、それぞれが「1点でも、"りくりゅう"を超えるため」に競技と向き合う。その真摯な姿勢が、フィギュアスケート界全体を刺激するはずだ。 「(りくりゅうと)同じ表彰台に乗ることができて、うれしかったです!」(長岡) 「りくりゅう先輩の1個下はモチベーションになるし、海外の試合でも一緒に(表彰台に)乗れるように!」(森口) 後輩たちも、背中を追いかけている。活気が生まれる。そのつながりが、りくりゅうをも強くするはずだ。
小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki