英国で「最も有名な通り」を、再びショッピングの聖地に…「物議を醸す」試みでロンドンは蘇る!?
<ロンドンのサディク・カーン市長は「この通りを再び世界屈指の小売業の聖地にする」と意気込んでいるが懸念の声も上がっている>【木村正人(国際ジャーナリスト)】
[ロンドン発]ロンドンのサディク・カーン市長(労働党)が2017年に表明したオックスフォード・ストリートの歩行者天国化がようやく実現に向けて動き出した。英メディアが一斉に報じた。カーン市長は「この通りを再び世界屈指の小売業の聖地にする」と意気込んでいる。 【図表】世界の移住したい国人気ランキング、日本は2位、1位は? 当初はロンドンの新たなランドマークとなる公共スペースとワールドクラスのショッピングエリアを創出するため、オーチャード・ストリートとオックスフォード・サーカス間約830メートルの東西方向の交通をすべて制限する計画だった。 18年12月のエリザベス線の開通(実際には22年5月にずれ込む)に合わせ、有名なショッピングストリートの一部を車やバス、ブラックキャブ(黒塗りタクシーのこと)のためではなく、人のためのスペースに生まれ変わらせるという触れ込みだった。 ■交通アクセスや混雑を懸念する声 新しい公共スペースや周辺にサイクリング・ルートを設け、歩道も拡張する。目玉となる800メートルの長さのパブリック・アートの設置も検討されていた。当時、カーン市長は「これは首都にとって非常にエキサイティングな瞬間だ」と胸を張った。 16年夏以降、ロンドン交通局はオックスフォード・ストリートを走るバスの本数を40%削減、エリザベス線開通後はさらにバスの本数が減ると見込まれていた。オンライン調査では回答者の62%が歩行者天国化を支持したものの、交通アクセスや混雑を懸念する声も強かった。 22年5月の地方選まで地元のウェストミンスター区議会は保守党が圧倒的多数を占めていた。区議会は「車を排除すると近隣住宅地の交通量が増える」「車でのアクセス、配達、ビジネス、タクシーに頼る人々に影響が出る」としてカーン市長とは別の計画を進めていた。 ■米国のお菓子や怪しげなお土産を売る店が増える 歴史的にも文化的にも重要な位置を占めるオックスフォード・ストリートでは「米国のお菓子や怪しげなお土産を売る店が増えている」(英紙ガーディアン)のが実態だ。20年前にもケン・リビングストン市長(当時、労働党)が歩行者天国化を提案したが、否決されている。 「渋滞解消のため馬車が禁止されてから約1世紀。今、新たな計画のもと、オックスフォード・ストリートに列をなす赤い2階建てバスや黒塗りタクシーは別のルートに変更されることになった」(同紙)。伝統を重んじる英国は時代の流れに合わせるのが苦手なのかもしれない。 カーン市長は歩行者天国化で観光客と消費が増え、税収も増加するとアピールする。「オックスフォード・ストリートは英国小売業の王冠に輝く宝石のような存在だったが、この10年で大きな打撃を受けた。英国で最も有名な目抜き通りを再生させるためには早急な対応が不可欠」 ■EU離脱でロンドンの観光業は大打撃 ロンドン中心部では今年2月、象徴的な老舗百貨店の一つであるフェンウィックは130年以上営業してきたニューボンドストリート店を閉店。コロナ危機による大幅な損失とオンラインショッピングとの競争に対応できなかった。 英紙フィナンシャル・タイムズによると、オックスフォード・ストリートは高い空き店舗率と万引きの多発に悩まされてきた。22年半ばには空き店舗率は13%に達したが、今年6月には約4%に改善。コロナ危機で落ち込んだ来客数も1日当たり約50万人にまで回復してきた。 地方自治担当のアンジェラ・レイナー副首相(労働党)は、カーン市長の計画を復活させるため、都市開発公社を設立し、計画策定の権限を与える方針だ。レイナー副首相は「新たな雇用が創出され、経済活動が活性化し、成長が促進される」とカーン市長を後押しする方針だ。 英国の欧州連合(EU)離脱はロンドンの観光業に大打撃を与えた。買い物は外国人観光客にとって20%も割高になり、割安なフランス、イタリア、スペインに消費がシフトした。年約200万人の観光客が遠のき、推定107億ポンドの国内総生産(GDP)が失われたとの調査結果もある。