「カセットテープよ、永遠に」演歌店頭ライブ大盛況の錦糸町・セキネ楽器店
東京の東部、墨田区は錦糸町駅のすぐそばに、昭和27年創業の老舗「セキネ楽器店」がある。5人も客が入れば窮屈になりそうなこぢんまりとした店内の壁の棚一面には、びっしりとカセットテープが詰まっていた。しかも、すべて演歌だ。ポップスやロック、クラシックなど、ほかのジャンルは見当たらない。 なぜいま、演歌なのか、カセットなのか。2代目社長・関根正己さんに話を聞いた。
首都圏を東西に貫く総武線と東京メトロ半蔵門線が乗り入れる錦糸町。戦前から映画館や遊技場などのあるレジャー施設、楽天地(東京楽天地)で親しまれてきた。1980年代に全面改築、いまも映画館をはじめ商業施設として賑わいを見せている。
「会いにいける」のは、秋葉原だけではなかった 演歌歌手の店頭ライブが大盛況
セキネ楽器店は、南口を出てすぐ、大きなロータリーに面している。取材日に訪れると、ひときわ目立つ人だかりが店の前にできていた。わずかなスペースを利用して、演歌歌手のミニライブが開かれていた。この日は、青森県弘前市出身の西尾夕紀がデビュー25周年記念曲「里の恋唄」(日本コロムビア)をはじめ数曲を披露。西尾はものまね番組などでも親しまれており、50~60人ほどの人たちがつめかけていた。
「好きな歌手のイベントがあれば、必ずくるよ」 最前列で本格的な一眼レフカメラを構えていた客の70代男性は、楽しそうに笑う。 「おれたち、追っかけだからね」 連れの70代男性もニッコリ。ライブ後は店内に移動し、CD購入者の特典として握手会と2ショット撮影会が行われた。
「会いに行けるアイドル」を標榜し国民的アイドルグループとなったAKB48の本拠地は、わずか3駅先の秋葉原。しかし、ここ錦糸町にはAKB以前から、演歌歌手と身近に接することのできる場所があり、ファンが支え続けていたのだ。 「総武線の沿線には、(こういうお店)多いですよ」とはキャンペーン終了後、ほっと一息の関根さん。
カセットテープの火を消しちゃいけない
「ウチは携帯電話が普及し始めたころ、演歌に特化したんだよ。昔は駅ビルの中にも店舗を持っていて、洋楽やJ-POPなんかも扱っていたの。でも、当時の携帯は音が悪かったからねぇ。音楽を楽しめる機械じゃなかった。せいぜい着メロぐらいだったよね。そんな中で、失われつつあったカセットテープの火を消しちゃいけないんじゃないかと。カセットは、CDより音がやわらかい。つらいときにも、やさしく響くんですよ。カセットといえば、演歌。それで、ジャンルも演歌に絞ったんです。演歌は詞も曲もいいし、歌い手も上手だからねぇ」 実は、演歌を求めるお客は、いまでもカセットを買う人が多いそう。 「キャンペーンではCDを買っても、一般的にはカセットで聴いているお客様が多いですよ」 しかしカセットテープといえば、いまやすっかりマイナーになってしまった感がある。そのカセットを主力商品にして、経営は大丈夫なのだろうか。 「ウチは最初、ラジオ店だったんです。レコード店になって、最初は8トラ(ジュークボックスやカラオケなどで使われたカートリッジ式のテープ)を扱った。カセットはその後だよね。でも結局、演歌やってる限り(売り上げは)横ばいですよね。ずっと横ばい。安定したファンの方、古い方が多い。それはもうしょうがないですね」