【スクープ】命を救う人工呼吸器でトラブル100件以上か!窒息状態で救急搬送されたケースも…フィリップス・ジャパンの複数の元社員が証言(前編)
米国で出荷を停止した後も日本では出荷を続けたのか
疑問が残るのが、問題器具の出荷時期の違いだ。米国の規制当局・米食品医薬品局(FDA)によると、米フィリップスは問題の改修器の出荷を2022年3月に始め、半年後の9月6日には止めていた。日本からトラブル報告を受けて調べを進めるなか、リスクを察知してストップした可能性が高い。 一方、日本の対応は違った。フィリップス・ジャパンが国に報告した『医療機器回収の概要』によると、2機種については米国が出荷を止めてから4カ月後の2023年1月まで、日本国内では出荷を続けていたと記されている。米国で自主回収が始まってからも、記録上はまだ1~2カ月間は出荷を続けていたことになる。ようやく自主回収を始めたのは2023年2月に入ってからだった。 この間、患者が窒息状態に陥るリスクのある改修器を、フィリップス・ジャパンは本当に出荷し続けていたのだろうか。事実なら重大な問題ではないか。しかし、東京都に確認を求めても「終了報告書が届くまで詳細はわからない」(薬事監視担当課長)、厚生労働省も「個別事案にはお答えできない」(医薬安全対策課)という回答だ。 窒息のリスクが発覚し、リコールとなった医療機器の話なのだ。いつまで出荷された器具に、どんな危険があるのかといった基本的な情報は、むしろ積極的に広報し、患者の不安をできるだけ取り除くのが仕事ではないのか。その役割を放棄するかのような、日本の規制当局の「秘密主義」は正直、理解に苦しむ。
回収対象となった改修器の出荷を「開始した時期」についても、本来なら東京都への報告通りに2022年4月とするべきだが、『概要』には新品で出荷された時期と思われる2014年(100plus)や2016年(200plus)と書かれている。もしかすると規制当局は実情をまるで把握していないのではないか、という疑念まで浮かんでくる。 実際はどうだったのか。当時、フィリップス・ジャパンに在籍し、事情をよく知る立場にいた元社員X氏が、1本の興味深い社内メールを見せてくれた。そこには、自主回収をした呼吸器の部品交換作業を中止するよう求める内容が書かれていた。いったい、何が起きていたのか。(後編につづく) 現在配信中のスローニュースでは、社内メールの内容や、元社員が「少なくとも100件以上」と証言する相次いでいたトラブルの実態についても詳しく伝えている。 取材・撮影 萩 一晶(はぎ・かずあき) フリーランス記者。1986年から全国紙記者として徳島、神戸、大阪社会部、東京外報部、オピニオン編集部などで働く。サンパウロとロサンゼルスにも駐在。2021年、フリーに。単著に『ホセ・ムヒカ 日本人に伝えたい本当のメッセージ』(朝日新書)、共著に『海を渡る赤ちゃん』(朝日新聞社)など。フィリップス関連の情報は、cpap2023j@gmail.comまでお寄せください。
萩一晶