30年変わらぬ体育館での雑魚寝「劣悪環境」の避難所が生む関連死 自治体任せから脱却を 備えあれ⑤避難力
阪神大震災と29年後の能登半島地震を比べても、避難所のトイレ事情は何ら変わっていない。能登半島地震の直後、現地入りした民間団体「日本トイレ協会」理事の高橋未樹子(45)は、処理が追いつかず不衛生なトイレを何度も目にした。
道路の寸断などもあって、仮設トイレは必要な台数がなかなか配備されなかった。袋の中に用を足して凝固剤で固める「携帯トイレ」も多くの避難所に備蓄されていなかった。「ビニール袋に用を足して1カ所に集めたり、地面に穴を掘ったりしていた避難所もあった」と高橋は振り返る。
昨年4月の台湾地震では避難所の充実ぶりが注目されたが、なぜ日本の避難所は「劣悪」なままなのか。「避難所・避難生活学会」常任理事を務める新潟大特任教授(心臓血管外科)の榛沢(はんざわ)和彦は、国を挙げた支援体制の不備を指摘する。
■海外事例基に「TKB48」を提唱
榛沢が先進例として挙げるのがイタリアだ。災害対応を専門に活動する国家機関「市民保護局」を持ち、災害時には各地の倉庫に備蓄したコンテナ式水洗トイレや大型テント、移動式キッチンなどを投入できるように備える。特に食事は「温かくおいしい食事を出す」ことに努める。榛沢は「災害時も日常と同じような生活をできるように努力している点が日本と全く違う」と話す。
諸外国の例をもとに、学会ではトイレ(T)、キッチン(K)、ベッド(B)を48時間以内に避難所に届ける「TKB48」を提唱し、各地に備蓄倉庫を設ける案を示す。政府も能登半島地震を受け、避難所で使う段ボールベッドなどの資機材を充実させるほか、自治体に備蓄状況の年1回公表を義務化する方針で、避難生活の環境改善を目指す。だが、これまでは自治体任せの部分も多く、現状の体制から脱却できるかは不透明だ。
近い将来、南海トラフ地震が発生すれば、西日本の太平洋側を中心に広範囲で未曽有の被害が想定される。石破茂政権は「事前防災の徹底」を掲げ、防災面での司令塔機能を担う防災庁設置へ準備を進めている。