世界最大の乾燥機は新幹線1両分 災害備蓄でも注目、フリーズドライ工場に単独取材㊤
工場内のあちこちで「レールポイント切り替え中」という音声アナウンスが鳴り、作業員が慎重にトロリーを押す。その様子を撮影しようとすると、レール部分を写さないよう注意された。安全対策に独自技術が駆使されているからだという。
凍結後はいよいよフリーズドライ機(乾燥機)へ。円筒形で長さ24メートル、直径2・5メートル。新幹線車両1両分と同程度で、1度に8万8千食分を作れる世界最大級のサイズだ。これが2つの工場建屋に計18台もあるというから驚く。
大きな丸い扉は、さながら列車の先頭車両のよう。扉が開き、トロリーが入っていく。内部の壁に使われる断熱材に独自の工夫があるといい、中をのぞくことはできない。みそ汁はここで24時間以上かけて、じっくりと水分を抜かれる。
■〝宇宙空間〟で徹底乾燥
真空状態に置かれた水は、沸点が下がるため氷から一気に水蒸気へ「昇華」する。フリーズドライ製法は、この現象を利用したものだ。
乾燥機の中の気圧を、国際的に「宇宙空間」と定義される高度120キロと同じレベルまで下げ、沸点をマイナス20度まで下げる。すると、食品内部の凍った水分が気化し、食品はスポンジ状になる。こうすることで食品を加熱せずに乾燥でき、鮮度や風味を損なわずに長期保存できるという。
最後の工程では、乾燥しブロック状になったみそ汁を、アルミ袋で完全密封する。湿気や酸素から守るため特殊な包装がされ、金属探知機やX線、人の目による検査が行われる。長期保存のための工夫が凝らされているため、ここでの撮影も一部NGだ。
仕入れから完成まで、実に1週間以上。さまざまな工程を経てようやく完成したみそ汁は、湯をかけるとわずか10秒で元に戻ってしまう。
■昔の技術をそのまま継続
岡山工場では昭和43年、吸収合併前の天野実業時代にフリーズドライ食品の製造を開始。日清食品の「カップヌードル」に入れる具材を供給して収益を伸ばし、みそ汁などの商品生産体制を整えた。