アメリカはタリバン復権を後押しし、アフガニスタンの民意もそれを支えた 民主化が失敗した理由は何か。これからどうなるのか【アフガン報告】6回続きの(3)
イスラム主義組織タリバンの復権は劇的だった。アフガニスタン駐留米軍が完全撤退する直前の2021年8月15日、タリバンは首都カブールに入城し、9月には全土制圧を宣言した。民主政府初代大統領のハミド・カルザイ(65)は、アフガン駐留に意義を見いだせなくなったアメリカがタリバンと和平合意を結んで復権に「ゴーサイン」を出したと信じている。だが復権の理由はそれだけではない。民間人を巻き添えにする対テロ軍事作戦が民主政府への信頼を傷つけ、結果的にタリバン支持を膨らませた。(敬称略、共同通信=新里環、木村一浩) 誰もアフガンのことを考えず、アメリカ製の民主主義を押しつけた 民主化が失敗した理由は何か。これからどうなるのか【アフガン報告】6回続きの(1)
誇り高い戦士たちは戦後、国造りを怠り目の前の大金に手を付けた 民主化が失敗した理由は何か。これからどうなるのか【アフガン報告】6回続きの(2) ▽20年かけてタリバンは勝者になった カブール中心部。旧アメリカ大使館近くの壁には、90度右に傾いた星条旗が描かれ「アラーの助けにより、わが国はアメリカを打ち負かした」と記されている。米軍が残した軍用車両をタリバン兵が乗り回し、クラクションを鳴らして街を駆け抜ける。タリバン治安機関幹部は日本人記者である私たちに気づくと「どうだ。治安が良くなっただろう」と自信たっぷりに話しかけてきた。 女性や少数民族を抑圧する政策を非難され、タリバン暫定政権はいまだに国際的な承認を得られずにいる。国内経済は最悪だ。だが今のアフガンで強く感じるのは、タリバンが20年間の反米・反政府武装闘争を経て「勝者」の地位を手にしたという動かしがたい現実だ。 初代大統領のカルザイはタリバンの監視下で、カブール中心部の邸宅に暮らしている。私たちはタリバンの許可を得てカルザイに会うことができた。
「アフガンで民主主義が失敗したのは、アフガン人が拒絶したからではない。国民は民主主義を受け入れ復興も進んだ」。カルザイは特徴的な甲高い声でそう強調し、失敗の原因は「アフガン政府と国際社会のしくじり」だと述べた。中でも「最大の失敗」は、国際テロ組織アルカイダとタリバンの壊滅を目指した「米軍とアフガン軍による過酷な軍事作戦」で何万もの市民を巻き添えにしたことだと振り返った。 「私たちは市民を殺した。安全を守れなかった」。だから信頼を失いタリバン支持が再興した。2001~21年に死亡したアフガン市民は4万8千人を超す。 被害の一例を紹介したい。米軍は撤退完了の前日、2021年8月29日にカブールで「爆発物を積んだ車両」を無人機空爆したと発表し「過激派組織の差し迫った脅威を排除した」と主張した。だが車に乗っていたのは過激派ではなく支援団体勤務のゼマライ・アフマディ=当時(43)=だった。帰宅を出迎えたアフマディの子どもの他、2~30歳の親族を含む計10人が死亡した。4万8千分の10だ。国防総省のカービー報道官は誤りを認めたものの「自衛のための攻撃で法律違反はない」と強調。「個人の責任は問わない」とも表明した。