WAT'S GOIN' ON 〔Vol. 13〕青森スタイルのタフな全員バスケ 青森ワッツのこれから
常勝だけがプロスポーツチームの存在意義なのだろうか…既存のプロスポーツ観に逆らうようにBリーグ誕生以前から活動を続ける不思議なプロバスケットボールチーム《青森ワッツ》の魅力に迫る。台湾プロバスケットボールリーグの新竹ライオニアーズとのグローバルパートナーシップ締結など、アリーナに収まらない活動を開始した青森ワッツが地元青森にどのような波及効果をもたらし得るのか、また、いかにしてプロスポーツチームのあり方を刷新してゆくのか、その可能性を同チームの歴史とともにリポートする。〔全13回〕
改革の行方
そして2022‐23の勝負のシーズン。 北谷の狙い通り、青森ワッツは躍動した。 「まず徹底的にディフェンス、そこから速い展開のバスケットボールを目指しました。プレーしていても、観ていても一番面白いでしょ。相手の攻撃を防ぐということは、こちらがシュートを打つ機会を得るということです。速い展開に持ち込めば、40分のなかで、シュートを打つチャンスが何度も訪れます。選手としては各自、なるべく多くシュートを打ちたいし、得点も決めたい。観ていても、得点シーンが増えると楽しいですよね」(北谷) 北谷はこれを自らの志向ではなく「青森のスタイル」だと語る。 「私は鶴田町出身なのですが、もともとバスケットボールに力を入れている町なんです。強豪の鶴田中学校の部活で学んだのも堅守速攻のスタイルでしたし、進学した弘前実業高校も同じように、どちらもディフェンスからの速いバスケが特徴でした」
現代のバスケットボール
北谷の理想は、堅守からのファーストブレイクだ。 「といっても、現代のバスケは、私の現役時代と比べるとトランジション(攻守の切り替え)のスピードが格段に増していて、ファーストブレイクを決めるのはそう簡単ではありません」 そのため、素早いトランジションだけでなく、5人のフォーメーションで相手を崩す攻撃も備えておかねばならないという。 「ガード陣が3ポイントラインまでボールを運び、そこからスクリーンなどを使って攻めていく場面も、膨大な数のサインプレーがあります。高原と選手たちの緊密なコミュニケーションと努力の賜物でしょう」 Bリーグでは――とくにB2においては――とんでもない身体能力を持ったビッグマンがひとりいれば試合に勝ててしまうこともあるが、青森ワッツには下山以来の伝統がある。 「ひとりの天才(ジーニアス)に頼るより、5人のスペシャルな選手が全員バスケットをやったほうが面白し、応援したくなりませんか? 全員でディフェンスして、全員で攻めるバスケットボールは、相手からしたら相当厄介です。どこを守ればいいか押さえるポイントが絞れません。また観ている方も、同じ選手だけがたくさん点をとるより、いろんな選手がいろんなプレーで決めるほうが楽しいはず」(北谷) 北谷が賭けた青森ワッツの伝統的スタイルは、高原と選手たちによって「タフな全員バスケ」に進化した。結果は、28勝32敗。昨シーズンは5勝47敗なのだから、劇的な躍進である。Bリーグ発足後、初めてプレーオフにも進出し、高原とチームは確かな結果を出した。 ヘッドコーチやスタッフ、フロントへの信頼の表れだろう。2023‐24シーズンは選手12人のうち10人が残留し、パトリック・アウダ、ジョーダン・ハミルトン、さらにリュウ・チュンティンも加わった。