そもそも人はゴルフスウィングをどうやって「体で覚える」? どう練習するのが効率的? 科学的に考えた【解説「ザ・ゴルフィングマシーン」#106】
「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈者でインストラクターでもある大庭可南太が、TPI(Titleist Performance Institute)の取り組みについて紹介する。
みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さて今回も、先日参加してきましたTPIのセミナー内容から、人間の「運動学習」についての研究内容を紹介したいと思います。
「体で覚える」は本当か?
TPIの面白いところは、ゴルフのプロ集団の意見集約ではなく、各分野の専門家の研究をゴルフに応用している点です。したがって、今回のお題である「人はどのようにして運動を学習しているのか」についても、脳の研究をベースにしています。 つまり「運動学習」はゴルフに限った話ではなく、アメリカでも現在進行形の学問であり、さまざまなスポーツ分野を題材に研究が進んでいます。よって突き詰めると「その分野の専門書を読め」ということになるので、TPIでオススメされている「Motor Control and Learning」という本を一応、渡米前に買ってはみたわけです。 実はこの本、飛行機の中で読めるかなと思って購入したのですが、とにかくデカく、重いので、到底旅行に持ち運べるようなものではありませんでした。というわけでまだ読んでいませんので、前置きが長くなりましたが、ここではTPIで紹介された「脳と運動機能の関係」についてです。 まず重要な論点として、人間が運動を行う上で「筋肉に記憶機能はあるのか」、日本流に言えば「体で覚える」ことは可能なのかということです。 どのような運動であっても、大小さまざまな筋肉がタイミング良く連動しています。例えば最初に動き出す筋肉Aが50%収縮したところで、Bの筋肉が動き始め、そしてやや遅れてCやDの筋肉が活動を始めると言うことが起きているわけですが、この順番やタイミングはどのように記憶されているのかということです。 実験ではレバーを右から左にスイッチするといった運動を、全身の各所に筋肉の電気信号を計測するセンサーをとりつけて行いました。被験者には「レバーをできるだけ速く動かす能力の測定」と伝えたとします。そこで被験者は何度も全力でこの運動を繰り返すわけですが、何回目かで被験者に知らせずに、レバーを固定状態、つまり動かない状態にしました。 このときの電気信号を確認すると、レバーが動く状態と同じタイミングでシグナルが発信されたというのです。つまり、筋肉が互いに連携しているわけではなく、脳からの信号を忠実に実行しているだけということになります。よって、運動の記憶とは、筋肉ではなく脳に記憶されているので、スポーツの上達には、適切な指令を出せるように脳を鍛える必要があるのです。 これについてはさまざまな実験の結果、現在ではほぼ定説になっています。つまり「体で覚える」は不可能で、無意識に正しい運動ができる状態は、正確には「無意識に筋肉に正しい指令を出せるように脳が鍛えられている」状態なのです。