そもそも人はゴルフスウィングをどうやって「体で覚える」? どう練習するのが効率的? 科学的に考えた【解説「ザ・ゴルフィングマシーン」#106】
反復練習の効果
では、脳を効率的に鍛えるにはどういう練習が効果的なのでしょうか? 同じことを何度もする「反復練習(ブロック練習)」と、いろんな練習を混ぜて行う「ランダム練習」で面白い結果が出ています。 この実験では、二人の被験者に、「7番アイアンでのフルショット精度の測定」と実験目的を伝え、被験者Aには7番アイアンのみでの練習(ブロック練習)、被験者Bにはウッド、アイアン、ウェッジなど、さまざまなクラブを順番に打つように練習(ランダム練習)をしてもらいました。 するとほとんどのケースで、ランダム練習を行った被験者の方が、7番アイアンのショット精度が良かったという結果が出ました。なぜこうしたことが起きるのでしょうか。 当たり前ですが、毎回同じことをやっている方が、その瞬間のパフォーマンスは良くなります。しかし毎回違う問題を解こうとすれば、脳への負荷を上げることができます。 7番アイアンだけを練習した被験者は、練習ではナイスショットの確率も上がり、自信も付くでしょう。一方、いろいろなクラブを打つ被験者は、毎回セットアップやスウィングのイメージを変えなくてはいけません。このため後者のほうが学習負荷が高く、また毎回結果が良いわけではないので、自分の実力を過信することもありません。
これが本番のテストになると、ブロック練習の被験者は少しのミスが出ただけで「本当はできるはずなのに」と考え、ランダム練習の被験者は都度ナイスショットを出すための方法を考えることになります。結果本番では後者の方が良い成績を残すというのです。
運動記憶はなくならない
運動記憶にはもう一つ特徴があり、それは「一度できた運動パターンはなくならない」というものです。例えば自転車に補助輪なしで乗れるようになると、おそらく30年ぶりに自転車に乗ってもその運動を忘れていません。 このことは一見良いことのように思えますが、それならば一度できたナイスショットをなぜ毎回再現できないのかという疑問が残ります。これは「ミスショットの運動パターンも記憶される」からです。 つまり人間は何らかの運動を行う際、自分の脳に蓄積されている膨大な運動パターンの中から、毎回どれかをファイルのように取りだして実行に移しているわけです。たまたまその時に取り出したパターンが、ミスショットのパターンだったときにミスになります。練習では一回も出ないシャンクがラウンド中に突然出るのもそうした理由です。 ではどうすれば良いのかというと、良い運動パターンの、脳内における比率を高める、あるいはそれを呼び出せるトレーニングが必要だとしています。 例として、悪いショットのときに「何が悪かったのか」を考えるのではなく、良いショットのときに「いまのショットに向かうまでに良かったことは何か」を考える、つまり「悪い結果を修正する」よりも「良いプロセス」を評価するクセをつけるということです。「悪い結果」や「その原因」を考えることは、悪い運動パターンのファイルを増やすことにつながります。 また指導者や他人に言われたことを実行するのではなく、その都度、自分の言葉に置き換えてやってみる。そうして得た「良い運動パターン」を自分の言語や感覚として記憶することで、そのファイルを呼び出しやすくするともしています。 いずれにせよ、今後のスポーツ界では「十回連続成功するまで帰らない」といった手法よりも、「どうすれば練習の学習効果が高まるか」を考えることが中心になるだろうということでした。 もちろん、特定の技術の習得に向けて反復練習が必要な場合もあるので、ブロック練習が「悪」だとまでは言いません。ただPGAの選手の練習比率で言えば、ブロック練習が10%、ランダム練習が70%、ラウンド(実戦形式)が20%くらいになるのが平均的ということです。 とはいえ、充分な練習時間を取れないアマチュアゴルファーが、こうした「運動学習」の効率について考えることがより重要になるでしょうし、指導者としても「運動能力の向上は脳のトレーニングと等しい」ことを強く意識していく必要があるでしょう。
大庭可南太