なぜ阪神“黄金新人”佐藤輝明の衝撃のプロ初アーチが生まれたのか
阪神の黄金ルーキーの佐藤輝明(22)が27日、神宮球場で行われたヤクルト戦に「6番・ライト」で先発出場し1回に先発の田口麗斗(35)からバックスクリーンに飛び込む特大のプロ1号を放った。佐藤の2ランを含む初回の4点が生きて9-5で開幕連勝。虎の「恐怖の6番」は評判通りの実力を見せつけた。
左腕田口のスライダーを仕留める
まるで爆発音だった。一回二死三塁。佐藤が田口の真ん中やや低めのスライダーを捉えた瞬間、物凄い打球音を残して白球はセンターへ向かって舞い上がった。塩見が早々と打球を追うのをあきらめる。打球は、バックスクリーンの上部に当たった。 衝撃のプロ初本塁打。 トレードで巨人からヤクルトに救世主としてやってきた田口は膝に手をやりクビをひねった。ヤクルトの若き主砲、村上が、目の前を颯爽を走り抜けていく佐藤の姿を無表情でやり過ごしたのも印象的だった。大山、サンズの連続犠飛に続き、スコアボールに「4」を刻む価値ある2ラン。 「芯で打ったんで入ってくれてよかったです。最高に気持ちよかったです」 佐藤は打った瞬間にプロ初本塁打を確信していたという。 7回には二死から「佐藤シフト」の裏をかくようにフルカウントからレフト前へ軽打した。らにプロ初盗塁もマークした。 「しっかりと逆方向に強い打球を打つことができたのでよかったと思います。盗塁? なんとか次の塁ってことで盗塁も決められてよかったです」 敵地でのヒーローインタビューに指名された佐藤は、物怖じすることなく、その打席の仕草同様に堂々としていた。 「こういう結果を出すことができてうれしく思います」 「新人の佐藤輝明です。明日からもみなさんの前でいいプレーができるように頑張ります。よろしくお願いします」 無駄なことは一切言わずにストレートに思いを発した。
オープン戦ではドラフト制導入後、新人の最多記録となる6本塁打を放った。期待が膨らむ一方で「今は打たせてもらっているだけ」「公式戦に入って本気で攻められたらどうなのか」などの疑念の声もあった。だが、佐藤はまぎれもなく本気だった。 なぜ黄金ルーキーは開幕2戦目にして衝撃のプロ初アーチを放つことができたのか。 元阪神のチーフスコアラーで侍ジャパンの”007”も務めたことのある三宅博氏は、本塁打を打った打席の1球目のファウルに、その理由があると分析した。 「佐藤選手の良さは初球から積極的に振ってくることにある。ストレートであろうと変化球であろうと思い切ってバットを振れる。なかなか新人にできることではない。これもセンス。相手バッテリーにしてみれば、あのスイングを見せられれば、ひとつ間違えば、という恐怖感を抱き警戒する。その姿勢を見せることで相手投手のコントロールミスを誘うことになる」 この打席、佐藤は初球に田口が低めへと投じたスライダーもフルスイングしファウルにしていた。続く2球目の同じくスライダーが若干甘く入ったのを見逃さなかったのである。 田口には、鋭い腕の振りもボールのキレもなかったが、リーチがあり、高いグリップの位置からバットを振り下ろす佐藤が、得意とするコースのひとつにボールは吸い込まれていた。 「すでに内角を攻められているが、今後はもっと厳しい配球をされると思う。でも、きっちりとコースに投げることができるピッチャーがどれだけいるのか。プロの投手でも平均すると70%くらいのもの。残りの30%はコントロールミスを犯す。もちろん、打者側も同じく打ち損じをするわけだが、佐藤は甘いボールを一発で仕留める、パワーと技術を持っている。おそらくストレート狙いで、変化球も同じタイミングで振ることができる打者だ。野村克也氏が分類したA型と言われる打者で、そのタイミングでバットが出る打者が一番、厄介。プロで成功する条件の揃っている打者だと思う」 南海、ヤクルト、阪神、楽天で監督を務めた名将、野村克也氏は、打者のタイプを大きく4つに分類していた。A型が「ストレート狙いの変化球対応タイプ」、B型が「内外のコースを狙うタイプ」、C型が「打球方向を決めておくタイプ」、D型が「球種にヤマを張るタイプ」としていたが、野村氏は、「万能型とも言えるA型が最も厄介」としていた。佐藤は、まさにそのA型。しかも、インパクトの瞬間にボールが潰れるような音を残すスイングをするのだから、バッテリーが警戒しすぎて、逆にコントロールミスを犯す可能性が出てくるのだ。 新人の球団最多本塁打記録は田淵幸一氏が持つ22本。プロ野球記録は桑田武氏(大洋)と清原和博氏(西武)が持つ31本だが、三宅氏は「記録更新の可能性のある楽しみな選手」という。 今後は、さらに厳しい内角攻めも、その初球から振ってくる積極性を逆手にとった配球もされてくるだろう。全打席フルスイングするゆえの疲労や故障の危険性をいかにケアしていくかという問題も出てくる。だが、それらの難関を涼しい顔をして乗り越えていくような武骨さと対応能力の高さを佐藤には感じる。 佐藤は場内インタビューを「今年こそ優勝っていうものを目標に、その戦力に少しでもなれるように頑張っていきます」という言葉で締めくくった。「恐怖の6番打者」の効果は、前を打つサンズにも、後を打つ梅野にももたらされることになる。“本物”の黄金ルーキーは阪神のVの使者になるのかもしれない。