トランプ大幅追加関税の実現可能性とその衝撃
各種通商法に基づく追加関税の発動
トランプ第一期には、米国通商法に基づき海外からの輸入品に追加関税を課した、あるいは課すことを検討した例として、不公正貿易に対する制裁を認める通商法301条、セーフガード(輸入急増による国内産業への重大な損害の防止のために、輸入品に対して高い関税率を設定する緊急措置)を認める通商法421条、国家安全保障を損なう恐れがあるとして関税を認める通商拡大法232条がある。いずれも、大統領が牛耳る米国通商代表部(USTR)の調査を経て、大統領が追加関税を実施できる。 ただし、すべての国からの輸入品には一律に10%の追加関税を課すユニバーサル・ベースライン関税については、これら通商法のいずれ一つの条文に照らして実施することは難しい可能性もある。その場合、すべての国からの輸入品への一律の追加関税を正当化するには、新たな法律を作ることが必要となる。それは、議会の承認という高いハードルに阻まれるだろう。 しかし、それぞれの国に適合した異なる通商法の条文を適用し、最終的にすべての国からの輸入品に一律の10%あるいは20%の追加関税を課すことも検討されるのではないか。そうなれば、米国大統領の判断だけで大幅な追加関税が導入され、世界中の国が米国に輸出することに障害が生じることになる。それに対して、他国が米国に報復措置を講じれば、米中間の貿易戦争はそれ以外の国にも波及し、世界経済に深刻な打撃となってしまう可能性がある。 強力な大統領権限を再び獲得したトランプ氏が実施する追加関税は、世界経済にとって計り知れないほどの大きなリスクである。 (参考資料) "Specter of Trump Tariffs Hangs Over Markets(トランプ関税に身構える市場、米経済への影響は)", Wall Street Journal, August 19, 2024 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英