「佐野元春さんはよくぞ『さよならレボリューション』って言ってくれたなって。もう70年代じゃないんだよって見せてくれた」(田家秀樹×重松清)
直木賞作家が見せた見事な伏線回収
重松 今日はね、こんなものまで持ってきたんです。目覚まし時計。 田家 なんですか、それ? 重松 仕事場にある時計なんですけど。僕は、1981年の4月1日の朝10時、夜行列車に乗って上京してきました。そして、下宿に入って最初にやったのが、この目覚まし時計に乾電池を入れることだったんです。そこからね、今もまだずっと動いてるわけ。 ということはね、81年からの43年間、ずっとずっと俺を見てくれてんだよね、この時計が。 それと同じように、田家さんは、70年代から今に至るまで、ずっと音楽を見てくれていたんだよな、と。 でね、作家はすぐこうやって伏線回収するんですよ(笑)。 最初に肩書きの話で言ったんだけど、僕が最初に買った田家さんの単行本が、甲斐バンドのことを書いた『ポップコーンをほおばって』という本。田家さん、このあとがきって覚えてます? 田家 音楽見届け人。 重松 そう!「音楽見届け人。最近、自分のことをそんなふうに思ったりする。」このね、「見届け人」っていうのがまさに今だな、と。 田家 最近引っ越しをして、荷物を整理して見つけたんですけど、昔つくっていた季刊誌の最終号に、「今は若者文化、若者の音楽と言われているけども、僕らが大人になれば、これが大人の文化、大人の音楽になるんだ」みたいなことが書いてあって。 俺こんなこと書いてたんだ、と。なんだか当時の自分に励まされたような気がしました。 重松 この『80年代音楽ノート』は、1篇1篇はそんなに長くないんだけれども、アーティストだけではなくて、その背景にいるコンサートのスタッフさんたちの存在もすごく感じ取れる。音楽を愛して、ものを作ることを愛した人たちのいろんな群像劇にもなっていて、それがすごく田家さんらしいと思います。 で、僕の43年間を見つめ続けてくれた時計が、そろそろ8時半を指そうとしてます。締めの時間になりました。田家さん最後一言どうぞ。 田家 うまい! 小説のような終わり方ですね(笑)。いや、今日は自分のこれまでの過ごしてきた時間が、このためにあったんだっていう風に思えた日でした。 重松 20歳の俺も喜んでるよ。田家秀樹に会えたっていうね。今回、2回目で17年ぶりですよね。次3回目また17年後だと、田家さんが94歳、俺が78歳か。もうワンチャンあるかもしれないですね。 田家 あるといいですね。 重松 その時には90年代、2000年代、2010年代の話をしましょう。 田家 10年代までいけるか……。 重松 行こう! 20年代まで書きましょう! 田家 はい、頑張ります(笑)。 重松 よし、じゃあ今日は帰ろう! って、飲み屋じゃないんだから(笑)。 田家 ありがとうございました(笑)。 文/剣持亜弥 写真/三浦麻旅子
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