心療内科医が教える「断り方」と「いい人のリスク」 都合のいい人になっていませんか?まずは自分の声に耳を傾けて
周囲の人のネガティブな発言や自分勝手な行動に心をかき乱されると、前向きな気持ちを保つのは難しいもの。そんな相手とのコミュニケーションをスムーズにし、毎日を穏やかに過ごす練習を始めましょう(構成=村瀬素子 イラスト=すぎやままり) 【ポイント3つ】ストレスをためずに自分の気持ちを伝えるコツ * * * * * * * ◆「いい人」のリスク 歳を重ねるにつれ、交友範囲が狭くなり、密な人間関係の中でストレスを抱える人が多くなるようです。例えば頑固な親、気分屋な職場の同僚など、つき合うのが面倒だなと感じても簡単に縁を切ることができない関係の場合、心のモヤモヤが募っていきます。 特に『婦人公論』世代の女性は、自分の意見を主張せず相手に従ってしまう傾向が。ひと昔前の日本では、女性は従順であるべきという考えが一般的でした。そのため、家事や介護、あるいは職場で面倒を押しつけられても、断れずに引き受けてしまう。 内心は「なぜ夫は家事を手伝ってくれないの?」「週末はパートを休みたいのに」と不満があっても、断る罪悪感や「反対意見を言うと嫌われるかも」という不安から、本音を言えず、相手に服従してしまうのです。 一見「いい人」のようですが、相手からは「都合のいい人」と思われ、本人の心には鬱憤がたまります。その状態が続くと気分が落ち込み、うつなど深刻な心身の不調を招くことも。 また、抑えていた感情が爆発して、突然、攻撃的な言動をとってしまい、その結果、関係が完全に途絶えてしまうケースもあります。これではとても前向きな気持ちになどなれません。
◆忖度せず、素直に伝える 自分が機嫌よくいられて、面倒な相手とも心地よい関係を築くために大切なのは、「アサーティブ」なコミュニケーションです。 アサーティブとは簡単に言うと、自分の気持ちを正直にきちんと相手に伝えること。一方的に自分の意見を主張すること、きつい言い方をすることとは異なります。 どちらかが我慢したり仕方なく妥協したりするのではなく、尊重し合い、相手も自分も納得できるゴールを目指すのです。 アサーティブになる第一歩は、自分はどう感じ、どうしたいのか――自分の本心に耳を傾けること。そして忖度や遠慮をせず、それを素直に表明することです。次の3つはアサーティブの基本なので、ぜひ覚えてください。 【A】会話の基本は「Iメッセージ」。お願いしたいことがある時、「なぜあなたは掃除をしないの」と相手(You)を主語にすると、相手は責められている気分になり防御してしまう。「私は掃除してもらいたい」と自分(I)を主語にするだけで、状況や気持ちが伝わりやすくなります。 【B】依頼や誘いを断る場合は、できるだけ早く返事を。先延ばしにすると余計言いにくくなりますし、かえって相手の気持ちを傷つけることになります。 【C】心にもない言葉や余計な一言は口にしないこと。行きたくない会合を断る時に「また今度お声がけください」と言えば、再び誘われてしまいます。「こういう会が苦手なので」と明るく素直に状況を説明して断ったほうが、意図も伝わるうえに誠実です。また、「本当は行きたいけれど……」という曖昧な表現も避けましょう。