“女として生きることの痛み”を知るからこそ描けた「自分の人生を探究する物語」4選。2023年は女性監督の活躍が凄かった!
女性への性暴力を繰り返していたハリウッドの超大物プロデューサー、ハーヴィー/ワインスタイン事件を暴いた2人の女性ジャーナリストを描いた『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』で始まった今年は、そういう女性監督による必見の作品が多かった。同作の監督はドイツ人のマリア・シュラーダーで、彼女たちが「普通とは違うキャリアウーマン」ではなく、妻であり母であることも同時に描いているのが印象的でした。 ちなみにこのシュラーダー監督の前作『アンオーソドックス』(Netflix)は、男性があらゆる権力を握る閉鎖的な宗教コミュニティから脱出したヒロインを描くドラマなのですが、この6月に公開された『ウーマントーキング 私達の選択』もまた、ある小さな宗教コミュニティの実話をもとに描いて衝撃を与えた作品です。
今の時代に「ほぼ19世紀」の生活――女性たちが文字を学ぶことが許されない――を送るその場所で、毎朝女性たちの身体に残る暴力の痕跡が、それを「妄想」と片付けてきた男たちによる、薬をもられた上のレイプだったことが発覚します。映画は「残って戦う」と「出ていく」の選択を迫られた女性たちの議論を描くのですが、その既視感たるや。タイトルに込められた「言葉のない場所には沈黙しかない」という思いも、今の時代にこそ響くメッセージです。
日本ではNetflixで公開された映画『ナイアド~その決意は海を超える~』は、ドキュメンタリーで名を馳せたエリザベス・チャイ・バサルヘリ監督の初の劇映画。2013年にキューバからフロリダまで180kmを泳いだ女性水泳選手ダイアナ・ナイアドと、その親友でコーチのボニー・ストールの挑戦の波乱万丈を描いた作品ですが、これはもう今年の決定版みたいな作品です。 自信と傲慢と不屈の精神を持ち合わせた「やや面倒くさいオバハン」であるナイアドと、そんな彼女に呆れたり怒ったりしながらも「あんたが死ぬ時は私が絶対に看取る」と決めているストールは、ズケズケいいながら根に持つことはまったくなしの面白コンビで、よく言う「年を取ったら一緒に住む約束をしてる女友達」の理想形。映画には、性的マイノリティ、スポーツ界のグルーミング、「年を取ること」など、今の時代に通じる様々な要素がありながらも、そういうものを乗り越えた先にある完全な自由、そして「自分を生きる幸せ」と「誰かと生きる幸せ」が両立した世界を描いてめちゃめちゃ感動的です。 主演のアネット・ベニングとジョディ・フォスターはある世代にとっては「オスカーを獲得した美人女優」の代名詞ですが、「んな肩書きどーでもいいわ!」とばかりに、ワイルドな60歳を自由に嬉々として演じている姿が最高です。上の世代のこういう姿は、迷える40~50代の女性にとってはものすごい勇気になること間違いありません。 どの映画も、女性たちが「(恋愛以外の)自分の人生を探求する物語」で、それを女性たちの連帯が支えています。「女性は恋愛してこそ」「女の敵は女」という男社会の刷り込みからの脱却は「#metoo」以降、いろいろ描かれてきたと思いますが、今年はさらに「脱却のその先」を思わせる作品が揃ったなと言う感じ。 「女性ならではの視線」というのも、ここ最近やり玉にあげられる言葉ですが、私自身は、『女性ジェンダーのステレオタイプとしての「繊細さ」「美しさ」「優しさ」=「女性ならではの視線」』には、「んなもんねえわ!」と反論したいけれど、「男社会から見た『女性的な生き方』を強いられてきた人たち」だからこそ持てる視点は、絶対にあると思っています。来年もそういう女性監督にガンガン暴れまくってもらいたいなあ。
渥美 志保