「103万円の壁」が示す“継ぎはぎ税制”を放置でいいのか?問題は引き上げ幅と財源だけじゃない
■ マイナーチェンジでは本質的な解決は先送りに 扶養する側にも“年収制限”がかかっていることだ。配偶者控除や配偶者特別控除が適用されるのは扶養者の合計所得金額が900万円(給与収入1095万円)以下の場合で、900万円を超えると段階的に控除額が減少していき、1000万円(同1195万円)を超えると「適用なし」となる。これが、制度をさらにややこしくしている。 配偶者の収入については与党サイドから、年収の壁引き上げに伴い、満額の38万円の控除が受けられるパート収入を160万円まで拡大する可能性も示唆されていた。 「103万円」を動かそうとするだけで、他の控除についても手をつける必要が出てくるのだ。 こうした控除の新設や変更の連鎖を見ていると、増改築を繰り返した末に迷路のようになってしまった古い家を想像してしまう。 SNSなどで年収の壁に対する反響を見ていると、「日本の税制は複雑過ぎて分かりにくい。もっとすっきりさせてほしい」という声が、壁の引き上げへの要望と同じくらいに多い。「年収103万円の壁」問題で所得税に関心を寄せた若年層などが、解説記事を読んだり自分で調べたりして問題意識を持つに至ったのだろう。 複雑な税制は納税者の理解を得にくいだけではない。抜本的な改革が難しく、結果としてマイナーチェンジを重ねて本質的な解決を先送りすることになる。 その意味で、今回の「年収103万円の壁」引き上げ議論は、建て増しによる“継ぎはぎだらけで使い勝手の悪い家”を刷新する好機になるようにも思える。 「壁」の引き上げによって税収が減ることから、3党継続協議は当面、財源探しにフォーカスされそうだ。そうした中でも国民民主には「国民目線でシンプルかつサステナブルな税制」を再構築する役回りも期待したい。
森田 聡子