悲観の中から生まれる「日本株再起動シナリオ」 日経平均4万円という“意外と薄い壁”【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】
3.4万円突破で再起動する日本株の上昇相場
■7月11日に日本株が高値を付けて以降、日経平均の頭を抑えてきたのは半導体関連株の不調です。7月11日から12月4日までの日経平均の個別銘柄寄与度を見ると、半導体関連株が下位10社のうち実に5社を占めています(東京エレクトロン、レーザーテック、信越化学工業、ディスコ、SCREENホールディングス、図表4)。 ■半導体関連株を取り巻く環境は、ここへ来て2つの大きな変化が見られます。その1つは、米国による対中国半導体および製造装置の輸出規制に関するニュースです。12月2日に米商務省は、この対中輸出規制について、日本とオランダの製造装置メーカーを適用除外とすると発表しました。 ■日本最大の半導体製造装置メーカーである東京エレクトロンは、今年度上半期の売上の約45.6%を中国向けが占めています。同社に限らず、日本の半導体関連企業にとって、中国向けビジネスは非常に大きなウエイトを占めているため、市場では米中対立の激化と半導体業界への悪影響が大いに懸念されてきました。しかし、今回の米政府の決定により、日本の半導体株は最悪のシナリオを免れたと言えそうです。このため、株価的には「最悪シナリオ」を織り込んだ水準からの、戻りを試す展開が期待できそうです。 ■2つ目の環境変化は、米債券市場における極端な金利上昇懸念の後退です。トランプ新大統領の誕生を受けて、債券市場では景気刺激的で積極的な財政政策が進むとの思惑を織り込んで、長期金利が大きく上昇していました。しかし、11月22日にスコット・ベッセント氏が次期財務長官に指名されると、同氏の財政赤字削減に前向きなスタンスが好感される格好で、相場の雰囲気は一変して長期金利は大きく低下を始めました。 ■長期金利の上昇は投資家の求めるリターンを引き上げる効果があり、一般に株価にネガティブな影響があるとされています。特に、将来の利益成長への期待が株価評価の根幹をなすハイテク株や成長株は、こうした金利上昇に弱い傾向があります。このため、トランプトレードで大きく水準を切り上げた米長期金利の上昇が一服し、さらに足元で低下に転じてきたことは、米ハイテク株全般にとって追い風となりそうです。 ■こうした長期金利の動きは、ナスダックと連動しやすい日本のハイテク株、なかでも、半導体関連株の買戻しを誘発する可能性があります。仮に、対中輸出規制に関する行き過ぎた悲観が後退し、米長期金利の落ち着きを好感して米ハイテク株が押し上げられるようならば、ここもとの日経平均の上値を抑えてきた日本の半導体関連株にポジティブに働く可能性が高まります。こうした市場の反応が、企業業績全般の回復傾向と歩調を合わせて現れるようならば、「日経平均4万円の壁」も、意外にあっさりクリアされてもおかしくないでしょう。 〈まとめに〉 日本株に再起動の兆しが見られます。その背景には、冴えない展開が続いてきた企業業績のトレンド変化がありそうです。中でも、自動車業界の業績底打ちと銀行等の金融業界の業績改善は、相応のインパクトで日本株を押し上げる可能性があります。加えて、これまで日経平均の頭を抑えてきた半導体関連株が復活してくるようなら、間近に迫った「日経平均4万円の壁」は、思いのほか「薄い壁」かもしれません。 ※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。 ※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『悲観の中から生まれる「日本株再起動シナリオ」 日経平均4万円という“意外と薄い壁”【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】』を参照)。 白木 久史 三井住友DSアセットマネジメント株式会社 チーフグローバルストラテジスト
白木 久史,三井住友DSアセットマネジメント株式会社
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