地域医療は崩壊の危機 23年度外来3万2000人、入院1万2000人…種子島南部の医療圏支える公立病院の常勤医が1人に 医師育てる研修制度地方に逆風、人材は設備や待遇整う都市部へ流出
鹿児島県内で、医師不足に歯止めがかからない。高齢化が進む地域に不安が広がる。 【写真】医師確保が急務となっている公立種子島病院=南種子町中之上
「最も懸念していたことが起きた」。南種子町の小園裕康町長は7日の町議会臨時会で、公立種子島病院の院長が病気療養で島を離れたことを報告した。種子島南部の医療圏を支える常勤医が1人になった。 内科や外科、眼科など8診療科を掲げる同病院は、感染症病床2床を含む62床を有し、島唯一の病後児保育施設も併設する。2023年度は外来約3万2000人、入院約1万2000人を受け入れた。 1983年に町国民健康保険診療所として役場近くに開設。隣の中種子町も運営に加わり、町境の現在地に移転した2004年度には常勤医が7人いた。だが入れ替わりが激しく、12年以降は2~4人程度で推移。22年からは小児科の院長と内科医の2人で、鹿児島大学などから非常勤の派遣を受けるなどして必要な医師数を確保してきた。11~20年に事務長を務めた町総務課の羽生裕幸課長は「新臨床研修制度導入で医師確保が一層難しくなった」と指摘する。
□■ 新人医師に臨床研修を義務づける現行制度が始まったのは04年度。幅広い診療能力を身につける目的だったが、設備や待遇が整う都市部の病院に研修医が集中。過疎が進んでいた地方の医師不足は加速した。18年度に導入された専門医制度も研修を実施できる施設が大病院に限られ、人材流出に拍車がかかった。 県内の医療機関で研修する24年度採用の初期臨床研修医は94人。前年度より27人少なく、目標の110人に届かなかった。県内の病院に医師を派遣してきた鹿児島大学病院も例外ではない。04年に84人採用された研修医は、24年は22人に減少。今春研修医となった鹿大卒業生103人の4割に当たる42人が県外に出た。 坂本泰二院長は「流出を食い止めなければ大学病院自体が崩壊しかねない。やがて地方は医療を諦めないといけなくなる」と強い危機感を示す。 □■ 南種子町は現在、県外の民間事業者を介し、東京や長野から交代で医師を招いてしのぐ。救急患者の受け入れは車で1時間ほどの種子島医療センター(西之表市)に要請し、入院病床も縮小し負担軽減を図る。