新型ホンダCR-V e:FCEVの登場が、人類にとって大きな一歩になるかもしれないワケとは?
夢のカーボンフリー社会へ
社会実験のひとつだとすると、パッケージングが大雑把なのもうなずける。フロントにFCスタックとモーター、PHEV用の電池を前席の床下、水素タンクを後席の床下に収めているのはよいとして、航続距離を稼ぐために、水素タンクをもうひとつ、本来はラゲッジ・ルームとなる後席すぐ後ろに配置している。このため、荷室のフロアに出っ張りが生まれ、容量は大きく減少している。当然、後席の背もたれを倒すとより広い荷室があらわれる、というようなワゴンの常識は通用しない。 その代わり、「“生活の可能性が拡がる”フレキシブルカーゴ」ということで、後ろの水素タンクの出っ張りの載せるフレキシブルボードなる板が用意されている。だけど、こんな出っ張りのある荷室、実際上は使えないのでは? と、事前説明会で開発責任者に尋ねたところ、「それはユーザーの方にお任せしたい。われわれよりユーザーのほうが進んでいますから」という答えだった。 プラグイン機能を使って日常では60kmをBEVとして、長距離はFCEVとして使える。という車両説明にしても、水素ステーションがない場所への遠出はできない。行動範囲はおのずと限られてくる。実際はどんな使い方を想定されているのか? と、これまた開発責任者の方に尋ねたところ、これもまたおなじ答えだった。すなわち、「ユーザーの方にお任せしたい。われわれよりユーザーのほうが進んでいますから」。 革新的な商品というのはこういうものなのかもしれない。つまり、ホンダとしては、カーボンニュートラル社会の実現に向けた普及型商品をまずは提案した。使い方はみなさん次第。ユーザー側からどんどん意見を寄せてもらって、次なる、本当に使えるFCEVを開発しようというのだ。 ニッポンは2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを政府が表明している。これを受けて経済産業省は、2030年までに公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラ15万基を設置し、ガソリン車並みの利便性を実現。水素ステーションを1000基程度、最適配置で整備。さらに2035年に乗用車の新車販売の100%電動化を実現する。という目標を掲げている。 ホンダは経産省の目標より5年早く2030年に国内販売はハイブリッドを含めて100%電動化し、2035年にはハイブリッド20%、EVとFCEVで80%とする目標を掲げている。 夢のカーボンフリー社会。なにもしなければ夢のままだけれど、小さな一歩でも踏み出せば道になる。行けばわかるさ、迷わず行けよ。 新型CR-V e:FCEVは人類にとって大きな一歩になるかもしれない。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)