■攻撃的なスタイルのサッカーが主流に コスタリカの大金星や日本が一敗地にまみれたコートジボワール戦を含めて、先制されながら、逆転で決着のついた試合も「6」を数えている。南アフリカ大会のひと回り目では、「0」だったことを考えれば、攻撃的なスタイルを貫くチームが増えている何よりの証となる。また、どの会場もとロースコアのゲームにはスタンドからブーイングが渦巻く。ゴールシーンを求め、ロースコアゲームをよしとしないサッカー王国ブラジルの国民性もまた、ゴールラッシュを強力に後押しする雰囲気を作り出している。 水沼氏は、オランダとチリを例に戦術的な影響もあると見ている。「オランダは開幕前まで『面白くない』と言われていたが、結局はフォーメーションを5‐3‐2に変えたことが5対1の逆転勝利につながった。伝統を捨てたルイス・ファンハール監督の決断には驚かされたが、逆を言えば監督の采配というものが進化している証でもある。チリは、戦術家のマルセロ・ビエルサ元監督のサッカーをしっかりと継承している。ビッグネームはアレクシス・サンチェスとアルトゥーロ・ビダルくらいしかいないが、要所要所にいい選手がいて、とにかく守備から攻撃、攻撃から守備への切り替えが速い」。 またゴールラッシュとともに引き分けの試合が少ないにも特徴だ。現地時間16日に行われたイラン対ナイジェリア両チームともに無得点に終わり、今大会で初めての引き分けとなった。開幕か5日目、通算13試合目で初めて引き分けが記録されたケースは、20回目を数えるワールドカップの歴史で最も遅い。これまでは1934年の第2回イタリア大会の11試合目が記録で、1998年のフランス大会以降の4大会では、すべて2日目までに引き分けが記録されている。南アフリカ大会でも、2日目にウルグアイとフランスがスコアレスドローに終わっている。 32か国が出場する現行形式となって以降、ループリーグを勝ち点「3」で突破した国は3試合すべてで引き分け、グループBでイタリア代表に次ぐ2位に入ったフランス大会のチリの例だけだ。これが勝ち点「4」となると延べ23か国中で約半数に当たる「11」が、勝ち点「5」をあげた国は100パーセントの確率でグループリーグ突破を果たしている。 ■グループリーグ突破の鍵を握る初戦の白星 最低でも白星がひとつ求められる状況下で各国が初戦を最重要視し、そこへ南アフリカ大会以降のスタンダードとなった「4‐2‐3‐1システム」をベースとする攻撃的なスタイルが加味された結果が、ブラジル大会におけるゴールラッシュと引き分けの減少に　つながっていると言っていい。また高温多湿の過酷な気候条件も、劣勢に回ったチームから、さらに体力と集中力を奪い、失点が大きく広がるという悪循環を生み出している。 今後は初戦に勝利したチームが、決勝トーナメント以降をにらみながら選手起用などでさまざまな駆け引きを演じてくる。ゴールラッシュに玄人が好む要素も加味させながら、グループリーグが中盤を迎えている。 （文責・藤江直人／スポーツライター）