10社を創業し累計3800億円調達したMIT教授の「気候テック」
CO2を出さない「地中水素」にも注目
しかし、リチウムイオン電池の基礎を築いたこの会社を蒋教授は、成功とみなしており、同社の出身者らはONE(ワン)やVertiv(バーティブ)を含むエネルギー分野のスタートアップで活躍している。 そして、蒋教授が次に目を向けたのが、世界の温室効果ガスの総排出量の約8%を占めているとされる、セメント製造の分野だった。同教授と共にサブライムシステムズを共同創業し、CEOを務めているリア・エリスは、ポスドク研究員としてMITに来て、バッテリーの研究を行っていたが、ある日、セメントの脱炭素化の研究を進めるように蒋教授に依頼されたという。 「蒋教授の発明のアプローチは、問題から逆算して解決策を見つけるというものだ。この手法は、バッテリーからセメント、さらにはコールドフュージョン(低温核融合)にまで対応できる」とエリスは話す。 サブライムシステムズは現在、試験プラントを立ち上げて、マサチューセッツ州ホリヨークに商業施設を建設中だ。従来のセメントの製造は、石灰石などの原料を高温で焼成するプロセスでCO2を発生させているが、同社はこのプロセスを電気化学的なものに置き換えて、CO2排出を抑えようとている。 ■CO2を出さない「地中水素」にも注目 蒋教授はまた、最近3つの新たな気候関連の企業を立ち上げた。その1社の電動航空機向けの動力源を開発するPropel Aero(プロペルエアロ)は最近、米国エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)のプログラムから110万ドル(約1億6000万円)の資金を受け取った。同教授はまた、ハードロック(硬岩)からリチウムを抽出するスタートアップと、地下の天然鉱床からカーボンフリーな水素を取り出す地中水素(geologic hydrogen)の企業を立ち上げている。「地中水素の領域は今後、誇大宣伝のサイクルを迎えるかもしれないが、探ってみる価値はある。新たな主要なエネルギー源となる可能性がある」と蒋教授は述べている。 脱炭素化のテクノロジーは、特に産業や鉱業の分野ではまだ初期段階にあるが、非常に大きなインパクトを与える可能性を秘めている。「このテクノロジーは、過去100年や200年にわたって続いてきた産業を根本から変えるもので、このような機会は滅多にない。今は、新たなチャレンジを始めるための絶好の時期なのだ」と、蒋教授は語った。
Amy Feldman