10社を創業し累計3800億円調達したMIT教授の「気候テック」
マサチューセッツ工科大学(MIT)の蒋業明(イェット・ミン・チェン)教授は、気候変動の危機に立ち向かうテクノロジーの研究を通じて、これまで気候テック関連の8社を含む10社のスタートアップを共同創業している。 そのうちの1社のForm Energy(フォームエナジー)は、「鉄空気電池」と呼ばれるバッテリーを開発する企業で、ビル・ゲイツの投資会社を含む投資家から約10億ドル(約1520億円)を調達している。さらに、製造プロセスで二酸化炭素(CO2)を発生させない建築用セメントを開発するSublime Systems(サブライムシステムズ)は、昨年4月に米エネルギー省から8700万ドル(約132億円)の助成金を受け取り、2026年までに年間3万トンの低炭素セメントを生産する新工場を建設すると発表した。 蒋教授が主に最高科学責任者(CSO)として関わるこれらの企業は、これまで累計25億ドル(約3800億円)以上の資金を調達している。気候変動がますます深刻化する中、蒋教授の研究と、それを実社会で活用する能力は人々に希望を与えており、フォーブスは9月に発表した第1回目の『サステナビリティ・リーダーズ』のリストに同教授を選出した。 「世間の人々は、2050年までに何ができるのか、できなかったらどうなるのかと心配しているが、やるべきことは、まだたくさんある。私は未来を悲観していない」と蒋教授は述べている。 現在66歳の蒋教授は、6歳のときに家族と台湾から米国に移民し、アジアの食品を販売する店を経営する両親の元でニュージャージー州とコネチカット州で育った。その後、MITに進学した彼は、1985年にセラミック工学の博士号を取得して教職に就いた。そして1990年に、32歳の若さで同大学の終身在職権を獲得した。 蒋教授が初めて立ち上げたスタートアップは、1987年に設立したAmerican Superconductor(アメリカン・スーパーコンダクター)と呼ばれる企業で、同社は、エネルギー業界向けの高温超伝導ワイヤを製造している。バッテリー研究の権威として知られる同教授は、2017年設立のフォームエナジーを含む4つのバッテリー関連企業を共同創業したほか、最近では電動航空機分野でも会社を立ち上げている。 「蒋教授は、MITの中でも最も活発な学術的発明家の一人であり、何十年にもわたってエネルギー材料の分野で活躍してきた。彼は、この分野における世界トップの人材の一人だ」と、材料科学イノベーションに投資するボストンの投資会社Material Impact(マテリアル・インパクト)の共同創業者であるカーマイケル・ロバーツは述べている。 ■リチウムイオン電池の先駆者 蒋教授が最初に送り出したバッテリー企業のA123システムズは、2001年に設立されたリチウムイオン電池の先駆者で、2億5000万ドル(約379億円)の連邦助成金を含む多額の資金を調達した後に、2009年には3億8000万ドル(約577億円)の新規株式公開(IPO)を果たしていた。しかし、電気自動車(EV)の普及が当初の予想よりも遅れる中で同社の売上は低迷し、2012年10月には破産申請を行い、その翌年に中国企業の所有下となった。