〝サラリーマン増税〟ドサクサ復活か 石破政権、退職金課税強化が再燃 「103万円の壁」議論の隙に…増税・負担増の路線が再始動
第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストは「労働市場の流動性を高めるという意味では、将来的に退職金課税の優遇をなくした方がいいとはいえる。ただ、家計が厳しい世帯が多い現状では、もろ手を挙げて賛同できるような施策ではない。対象となりそうな就職氷河期世代(1993~2004年ごろに高校・大学を卒業)は、ただでさえこれまで割りを食ってきた世代で、優遇の廃止は痛手が大きい」と話す。
退職金を受け取る世代を襲うのは、物価高だけではない。
東京商工リサーチの調査では、今年1~9月に早期・希望退職の募集が判明した上場企業は前年同期の1・5倍、対象人員は4倍にも上り、3年ぶりに年間1万人を超える可能性が出てきた。
経済ジャーナリストの荻原博子氏は「賃上げを経験してこなかった世代の頼みの綱が退職金という面があった。住宅ローンなど負債を抱えたり、多少余裕のある人でも旅行などで消費に回す絶対額が多い。『老後資金2000万円問題』も叫ばれて財布のひもを締める形になると、さらに消費を冷え込ませる」と警鐘を鳴らす。
今後の議論では、勤続20年以下でも現行制度より大きい控除額が適用されれば、勤続年数が短くても減税額が今より増える可能性もあるという。それ自体は結構なことだが、現行の優遇策を廃止する理由にはならない。
荻原氏は「退職金を受け取る世代は大学生の子供を養う世帯も少なくない。現在の若者の貧困は奨学金の返済も大きなウエートを占め、20~30代まで尾を引いている。扶養控除も縮小に動くなか、親の資金に余裕がなくなれば、若者の生活にも響く」と強調する。
転職の環境も十分ではない。職業紹介事業を展開する企業ゴールドキャリアが先月公表した年収変動に関する調査によると、転職で「年収が下がった」と回答したのは、20代が32・0%、30代が45・3%、40代が39・2%。50代は60・0%にも上る。
荻原氏はこう疑問を投げかけた。
「転職を拙速に進めても、40~50代の場合『企業で経験を積んできた』とみられず、『年齢が上』というだけで給与が低くされる傾向もまだ根強い。転職でも給与、退職金も上がらず、長年同じ会社に勤めても控除を縮小される。得をするのは誰なのか」