なぜ、中学生になると母親と距離を置き始める? 思春期の心のメカニズム
思春期は、心身ともに大きく変化する時期。ホルモンバランスの乱れや脳の発達に伴い、感情の起伏が激しくなりがちです。思春期特有の心理状態について、児童精神科医の舩渡川智之さん監修の書籍『思春期の子の「うつ」がわかる本 SOSサインの見極め方と適切な接し方』より解説します。 「育てやすい子・そうでない子」の違いとは?第2子を産んで気づいたこと ※本稿は、舩渡川智之著『思春期の子の「うつ」がわかる本 SOSサインの見極め方と適切な接し方』(大和出版)の一部を再編集したものです。
心身ともに変化する10代特有の不安定な心理
子どもの心は生まれたときから一歩ずつ、段階を踏んで成長します。成長のスピードに個人差はありますが、身体や脳の発達に応じて特有の心理的・精神的傾向を示します。 ・思春期は親から離れ、自分をつくり上げる時期 小学校に入学するまでのあいだに、子どもは社会に出る準備を整えます。乳幼児期は親などの養育者や身近な人間関係のなかで交流しながら自己と他者の違いを認識し、他者には他者の心があることを学びます。 小学校低学年のあいだは、まだ親に大きく依存しながら成長します。学校で同年代の友だちと一緒に行動し、少しずつ社会性を獲得していきます。 そして、10歳頃になると思春期が始まります。思春期は、子どもが親から離れていく時期です。この時期に子どもは両親(とくに母親)からの分離を始め、親とは異なる一個の人間として自我を形成していきます。 思春期には心理面も著しく発達し、12歳頃から自分を俯瞰する「メタ認知」ができるようになります。自分の言動を第三者の視点から眺めて冷静にコントロールできるようになりますが、同時に他人の目が非常に気になるようになります。 ・ホルモンや脳機能も変化し、衝動性も高まりやすい 思春期になると第二次性徴が始まります。男性は男性ホルモン「テストステロン」、女性は女性ホルモン「エストロゲン」の急激な増加でホルモンバランスを崩しやすく、心身が不安定になります。とくにテストステロンが増加する男の子は衝動性が高まります。 さらにこの時期には脳の機能も大きく変化します。本能や感情を司る大脳辺縁系が急激に活性化する一方、それを抑制する前頭前野の発達が追いつきません。このため情動や衝動を抑えられず、問題行動を起こすこともあります。 ある調査によると、子どもの暴力や暴言などの加害行為件数は中1から中3がピークとされていますが、要因のひとつに思春期のアンバランスな脳機能があると考えられます。 ・自傷行為も思春期から始まることが多い リストカットなどの自傷行為も思春期に起きやすい問題です。初めて自傷を行う年齢は12歳前後がもっとも多いとされています。また、10代の若者のうち約1割が「複数回自分の身体を刃物で傷つけた経験がある」と答えています。 自傷は自殺と同列に語られがちですが、両者には違いがあります。自殺は本人が「死ぬつもり」で行うことが多く、実際に死ぬことを考えて、致死的な手段で身体を傷つけます。 自殺を行う人は耐えがたい精神的苦痛を抱えており、「苦痛から逃れるには死ぬしかない」と考えています。自傷の場合、本人には死ぬつもりはないことも多く、「この程度なら大丈夫だろう」と思いながら自分の身体を傷つけることがあります。 10代では「イライラを抑えるため」など不快感情を解消するための自傷が半数以上を占めます。どうにもならない絶望を感じた子が「自分の身体をコントロールする感覚を得るために」または「苦痛があることを知らせて周囲の人をコントロールするために」行うこともあります。 こうした苦痛のサインに周囲が気づかず放置していると、自傷行為がエスカレートして自殺につながる恐れもあります。