「キリンビール 晴れ風」の累計出荷数が3か月で1億本を突破した3つの理由
「飲みやすい」と「飲みごたえ」、相反する味わいを実現する難しさ
新たなブランドを作っていく過程には、正解のない難しさがあったと向井さんは振り返る。 「初めてのブランドなので誰も正解がわからない、本当に売れるかどうかもわからない状況でした。意思決定をしていく中で、チームからも『本当にこれでいいのか』『不安です』といった声もあったんです。 中味もパッケージも広告もすべて『もっと良くできないか』と悩みながら、『発売までにできることは全部やろう』という気概で進めていきました。どんどんと良いものにしていく過程で、さまざまな試行錯誤がありましたね」(向井さん) そうした壁を乗り越える上で、「とことんお客様目線であること」を大切にしたという。 「基本的なことですが『私たちも一般生活者である』という視点は、チームみんなで意識した部分の一つです。ビールの缶、電車に貼られている広告。何も考えず生きてみた時に、気になる存在になっているか、興味が持てるか。 データだけで見るのではなく、原寸サイズで打ち出して、現物で見る。広告も現場の近くを歩いてみて魅力的なものになっているのか、場所はここで良いのかなどを実際に確認しました」(向井さん) 缶の色にターコイズブルーを採用する際には、大きな決断だったと向井さんは振り返る。 「パッケージの開発も苦労した点の一つです。今では、ありそうでなかったターコイズブルーの色をみなさん覚えてくださって『この色が好きで気になって買いました』と、ありがたいお声をいただきますが、色味が少し青に寄ったり緑に寄ったりするだけで、かなり印象は変わってしまうんです。 また、青色は『食欲減退色』とも取れてしまうため、『よく使いましたね』というお声もいただきます。検証をしながらも最後の方向性を決めるところは、とても勇気のいることでした」(向井さん) 苦味を抑えつつも飲みごたえのある味わいに仕上げていく過程にも、「相反する難しさ」があった。 「ビールが苦手なお客様の課題としてあった『ビールは苦い』という経験に対し、味覚のところは解決しつつ、飲みごたえのあるビールにする。一見、相反するこの二つを、とても高いレベルで両立させるところが非常に難しい部分でした。1年の開発期間の中で、何度も醸造を繰り返し、かなりの数の中から味を絞り込んでいきましたね」(向井さん) 結果的に、発売から1か月で過去15年のビール類新商品の中で最大の売上となった『キリンビール 晴れ風』。 後編では、ビールが苦手な若年層へアピ―ルする戦略についてうかがうと共に、『キリンビール 晴れ風』のヒット要因についてまとめていく。 取材/DIME編集部 文/久我裕紀
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