1994年「10.8」決戦! 長嶋茂雄監督は「勝つ」を何回言ったのか?/香坂英典『プロ野球現場広報は忙しかった。』
試合前、伝説のミーティング
翌日、ホテル出発前のミーティング。長嶋監督が立ち上がって話し始めた。5分強、10分は掛からなかったと思う。残念ながら、異様な雰囲気の中で、監督の話の内容がなかなか思い出せない。 ただ、監督の話が始まる前にふと頭を過ぎったのは「このミーティング、録音すべきだったか……」ということだ。しかし、準備をしておらず、それはのちのち大きな後悔になった。 監督は自信にあふれていた。語り継がれている「勝つ、勝つ、勝ーつ!」の3連呼については、僕の記憶はちょっと違う。「勝つ」というフレーズを3回使ったのは覚えているが、単なる3連呼ではなく、「勝つ」と「勝つ」の間にはほかの文言が入っていて、3度目の最後の「勝つ!」は、より大きな声で強く叫ぶように言ったと記憶している。 監督は以前、試合前のミーティングで「力を出し切れば、負けてもいいんだ」と言ったことがある。僕が知る限りでは、負けてもいいなんて言った監督は長嶋監督しかいない。「きょうの試合は勝つ!」と断言した監督も長嶋監督しかいない。 ホテルの一室に、言葉では表現できない異様な雰囲気が漂っていたのを思い出す。 長嶋監督の「勝つ!」の言葉は部屋の隅々までビリビリと響き渡り、その声を合図に一同が「よしっ!」と言って、ナゴヤ球場へ向かった。(つづく)
週刊ベースボール