男子バレー、パリ五輪・イタリア戦の真相。日本代表コーチ伊藤健士が語る激闘「もしも最後、石川が後衛にいれば」
パリ五輪に挑んだバレーボール男子日本代表が、イタリア相手に見せた激闘はいまなお鮮烈に記憶に残っている。8月5日に行われた準々決勝のこの試合、日本にとっては「マッチアップが狙い通りだった」試合でもあった。日本代表コーチを務めた伊藤健士が語る、イタリア戦で日本の強みが出せた理由、そして“最後の1点”にあと一歩足りなかったものとは?(取材日:9月5日) (文=米虫紀子、写真=エンリコ/アフロスポーツ)
イタリア戦を振り返る「こちらが機能しやすい当たりだった」
――パリ五輪準々決勝・イタリア戦は日本の守備が非常に機能し、それをスパイカー陣が得点につなげて流れをつかみ、1、2セットを連取。第3セットもマッチポイントを握りました。 伊藤:イタリア戦は、いろいろと準備していたことや、ミーティングで伝えたことを選手がうまく表現してくれて、「これ、勝てるんじゃないか」と。東京五輪の時はあそこ(準々決勝)で負けましたが、これはちょっと道が見えたなと、僕はベンチで思っていたんですけどね。 ――どのあたりから見えてきましたか? 伊藤:想定していたマッチアップがうまくいっていたので。まず1、2セット目のイタリアのローテーションは読んでいたんです。最近の傾向と、昨年のネーションズリーグ(VNL)のローテーションなどを踏まえて。(フィリップ・)ブラン監督が、その昨年のVNL3位決定戦の(日本が取った)1、2セット目と同じ当たりでやりたいと言っていたので、最近のイタリアの傾向から予想してローテーションを組んだら、狙い通りの当たりになりました。 3セット目はイタリアがローテーションを変えたんですけど、それも想定してこちらも動かしたので、3セット目もまったく同じ当たりになりました。1、2セット目はその当たりですごくいいパフォーマンスを出していたので、3セット目も同じ当たりになった時点で、これはいけるんじゃないかと僕は1人で思っていました。 ――イタリア戦のマッチアップは日本にとって何が良かったのですか? 伊藤:まずはこちらのサーブが機能しやすい当たりだということ。それと(エースのアレッサンドロ・)ミキエレットと関田(誠大)がフロント(前衛)でよく当たっていて、(ミキエレットの対角のダニエレ・)ラビアが西田(有志)と当たるんです。高さを考えると、(身長175cmの)関田に(205cmの)ミキエレットなんてしんどいと思うんですけど、ミキエレットは関田のブロックの上から打ってくることがわかっていたので、逆にディフェンスすべきコースもわかりやすくなり、上から打ってくるスパイクを結構ディフェンスできていました。 ラビアは西田と当たるとパフォーマンスが出にくいし、西田がフロントの時にミキエレットと当たると、ブロックが高いから少し苦しいので、西田がバックの時に当てたい。他にもいろいろな要素がありました。 ――イタリア戦は非常に日本のディフェンスがハマっていました。リベロの山本智大選手が普段と違うコースに入る場面もあったようですね。 伊藤:そうです。あの試合はポジション6(コートを6分割した時のバックセンター)のディフェンスが要になると思っていましたから。特に石川祐希が後ろにいる時は、石川をポジション5(バックレフト)に入れて、(普段はポジション5に入る)山本を6に入れました。(髙橋)藍が後ろにいる時はそのまま6に入れるんですけどね。ディグが山本級にいいので。 ただ、後半ちょっと想定外だったのが、ハイボールのシチュエーションはたくさん作ったのに、それを結構決められてしまったこと。途中からミキエレットが、関田が前にいても、その上を通さずに、2枚ブロックのクロス側を抜いたり、ブロックにぶつけて飛ばしたりしてきた。ハイボールのシチュエーションのほうが守りにくくなっていました。3枚ブロックに行くのかとか、3枚行かない場合はどこに入ればいいとか、もう少し説明しておけばよかったと、今では思っているんですけど。