ドイツの車暴走、容疑者は「反イスラム」主義者…移民に対する憎悪に拍車の恐れ
【マグデブルク(ドイツ東部)=工藤彩香】ドイツ東部マグデブルクで20日にクリスマスマーケットを襲撃した容疑者の男は、サウジアラビア出身の医師で、特異な経歴から動機に注目が集まっている。来年2月に予定される独連邦議会選挙に向け、移民排斥を訴える右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が今回の事件を支持拡大に利用し、移民に対する憎悪をあおる可能性がある。
ドイツに2006年亡命
地元メディアによると、男は母国サウジでの迫害を理由に2006年にドイツに亡命した。更生施設で精神科医として働いていたが、最近「就労不適格」とされた。サウジ女性の国外亡命を長年支援していたという。
警察当局は20日夜、容疑者の取り調べを始めた。独紙ウェルトは、男が反イスラム主義の活動家で、寛容な移民政策を進めたドイツの「イスラム化」を懸念していたと報じた。男は今年5月、自身のSNSでイスラム教徒の入国を制限するべきだと主張し、AfDに共鳴していたという。
社会の分断、一層進む恐れ
AfDのアリス・ワイデル共同党首は20日、「衝撃的だ。この狂気はいつ終わるのか」とX(旧ツイッター)に投稿し、事件を非難した。
事件現場があるザクセン・アンハルト州を含む旧東独地域は、AfDの地盤でもある。今年6月に行われた同州の地方選挙で、AfDは州全体で最多の票を得るなど着実に支持を伸ばしている。シリアのアサド政権崩壊を受け、「もはや逃げる理由がない」(ワイデル氏)としてシリア人の早期帰還を求めるなどイスラム系住民への圧力を再び強め始めている。
今回の事件も含め、選挙戦では移民や難民を巡る議論も争点になると予想され、社会の分断が一層進む恐れがある。