伝染病の予防や被災地支援、バスへの助成金… JRAが行っている様々な社会貢献
SDGs(持続可能な開発目標)が2015年に国連で採択されて以来、国家を問わず様々な企業や団体が貧困の撲滅、環境保護、不平等の是正など世界的目標にのっとった方針を打ち出すようになった。それは日本中央競馬会(JRA)も例外ではない。2022年4月に経営方針の「社会とともに」の項目へ、「持続可能でより良い社会の実現に貢献していきます」という一文を追加。同3月には「サステナビリティ推進部」を設立し。社会貢献活動の推進、強化を図っている。 同部の田渕寛社会貢献室長は「何か新しいことをやる組織ではなく、各部署でやっていたことをまとめていこうという、ヘッドクォーター(本部)的に仕切る部署です」と説明。以前よりJRAが行っていた社会貢献活動を、改めてまとめる意図があったという。 なかでも力を入れているのが畜産振興だ。「国がやっている取り組みの補完的な事業です。防疫や畜産の研究を行っている団体や大学への、助成金を含めた支援を行っております」と同室長。それは早くも今年、大きな成果をもたらしたという。「ランビースキン病という伝染性の牛の皮膚疾患があるんですが、その未承認ワクチンをあらかじめ購入して備蓄する事業を支援していました。そしたら今年の11月に日本で初確認されて、その対応に使用されたんです」。伝染病に罹患(りかん)した家畜は市場に出荷することができず、流行すれば業界へのダメージは計り知れなかっただろう。 そんな「転ばぬ先の杖」は、1月1日に発生した能登地震においても効果を発揮した。「各都道府県に、自然災害が起こったとき用の発電機を置いていたんです。それを能登地震の際に集めて、電気が通るまで使用してもらいました。電気がないと畜産業は成り立ちませんから」。長くつらい冬を越える希望のともしびとなったようだ。 研究分野においては牛の受胎率を上げ、効率的な生産を行う研究などに助成。今年度は、畜産振興に55億円の予算枠のうち46億円が使用された。畜産業を陰ながら支える立役者と言っていい。 田渕室長はもう一つ重要な事業として、「地域社会との共生」を挙げる。「地元へ競馬場を開放したり、幼稚園にポニーを連れていったり、競馬場が災害時の避難場所に指定されたり。そうやって地域につながっていくことが社会貢献になりますし、持続可能性においても大きな意味をもつと思います」。京王沿線に住む記者の友人家族も、子供を遊ばせる公園として東京競馬場を使用している。かつて鉄火場だった雰囲気はそこにはなく、すっかり地域住民にとって憩いの場になった。競馬に対する社会的イメージの改善は著しいが、そこにはメディア戦略だけでなく地域とのたゆまぬ交流が貢献していたのだ。 その一部としてバス会社への助成金も行っている。「昨年は中山競馬場の京成バスと福島競馬場の福島交通へ、今年は新潟競馬場の新潟交通へバスに対する助成金を行っております」。個人的には、これが一番感動した。電車社会の東京都においても、記者の住む多摩地域ではバスがないと不便極まりない、というより生活ができない。バスは社会において最も重要な交通インフラなのだが、現在は人手不足で減便や廃線が相次いでいる。自分もメディアとしてもっと競馬を盛り上げ、バスの存続に貢献していかなくてはと思わされた。(中央競馬担当・角田 晨)
報知新聞社