小松市のオーベルジュ オーフ 32歳のシェフが「地域と美食」を開拓
市内の小学生に「食育」も実施
日本においては、まだまだ料理人の社会的地位は高くはない。海外で3つ星のシェフともなれば、声を大にした社会的発言や、社会貢献はあたりまえだ。しかし、日本はそこまでいっていない。それを自分たちの世代、30代前半で変えていきたい、そしてさらにそれを次世代へ繋いでいきたいと考えている。 両親とも教師の家庭に育ったこともあり、食育にも熱意をもっている。師匠である高山氏が携わっていた「味覚の一週間」の授業を手伝った縁で、店をオープンした2022年から市内の小学校で1時間ほどのクラスをもつ。人間が生きるうえでの「食べる」ことの重要性をもっと根源から教えたいと、市を相手にその必要性をプレゼンし、予算をとりつけ、継続的な授業を可能にした。 地方のよさは、このように民と官の距離が近いことにもある。東京では一料理人が区長に会うことはあまり現実的ではないが、地方では強い意志を持って取り組めば、実現できる。糸井氏が地方のレストランに惹かれているのは、そんなところにも理由がある。 また、能登半島地震にはいたく心を痛め(オーフの建物や食器などに、直接的な被害はなかったが、キャンセルが相次ぐなど無論2次被害は大きかった)、震災直後から炊き出しにかけつけたり、被災した料理人や生産者と連携したり、チャリティイベントをしたり、復興支援を続けてきた。 喫緊の課題は、どのようにして、より多くの人に「オーベルジュオーフ」に来てもらうかだ。その解決策として考えているのが、「オーフで料理を食べることが、心に深く刻まれる体験になるように」心を砕くことだ。 例えば、食事の前に近隣の農家を案内して野菜を試食したり、山に入って山菜の説明をしたり、田んぼのあぜ道や農園にテーブルを設えてアウトドアダイニングをしたり……。オクラの花は、美しいばかりでなく、オクラと同じように粘りがあってとても美味しい。けれど、その命は極端に短い。だから、店で供することもかなわないが、農園ダイニングなら可能だ。まだ実現には至らないが、アイデアはつきない。 あの店のあれを食べるためだけにもう一度来たい、そんな気にさせるスペシャリテの開発にも取り組んでいる。日本の食の未来を変える可能性のある若き才気、常識やら世間体やらにとらわれず、丸くなることなく尖り続けていてほしいと、願わずにはいられない。
小松宏子