令和の「タワマンマウンティング」と平安の姫君サロン「ヒエラルキー」最大の違いとは?
紫式部を中心に平安の女たち、平安の男たちを描いた、大河ドラマ『光る君へ』の第11話が17日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、歴史上の人物の背景を深掘り解説していきます。 本放送では、まひろ(吉高由里子)が倫子(黒木華)に父・為時(岸谷五朗)の復職を頼むシーンがありました。このシーンにおける倫子のこれまでにない毅然とした態度におどろいた視聴者は多いのではないでしょうか。
たとえ「父親から溺愛されて育った娘」であっても「その立場をよく理解している」
まひろが「父は裏表のない真面目な人柄で 学者としても右に出る者がいないほどの学識がございます。必ずや新しい帝のお役に立てると思いますので なんとか左大臣様に…」と言い終わらないうちに、倫子は「それは難しいわ」と答えます。そして、「摂政様の決断は すなわち 帝のご決断」「左大臣とて覆すことはできません」と続けます。このときの倫子の言い方はいつになく厳しく、佇まいも凛としていました。 さらに、まひろが「では 摂政様に直接 お目にかかって…」と言うと、その言葉を遮るように「おやめなさい」と厳しい口調で止めます。そして、まひろに「摂政様はあなたがお会いできる相手ではありません」と釘を打ちます。 二人のやりとりから倫子が貴族社会の秩序や世の仕組みを理解していることが分かります。もし、父・雅信(益岡徹)に為時のことをお願いし、彼が動けば、我が家の立場もあやうくなる可能性があること、そもそもそのようなことはできないことをまひろ以上に理解しているのです。 父から溺愛されて育った倫子ですが、娘として父親に頼んでもよいこととそうでないことの分別がついています。
倫子さまを「腹黒」と見る視聴者もいるが、それこそが「時代のありかた」だったのでは
視聴者から「倫子さまの笑顔は裏が読めない」「倫子さまこわい」といった意見が出ています。 当時の宮廷人や貴族がホンネとタテマエ社会に属していたことを考慮すると、"倫子は笑顔の下に何かを隠している"と想像をめぐらせるのも仕方ないのかもしれません。筆者も「倫子が裏表のある女性」「嫌味な女性」として描かれていると当初は思っていました。しかし、彼女のセリフや家庭環境を考慮すると、"下の者に配慮するやさしさをもちあわせる穏やかな姫君"として描かれているのではないかと見方が変わってきたのです。 倫子は貴族の中では身分が高くないまひろをあたたかく迎え入れ、当初から存在感を発揮する彼女を必要があればフォローしています。このフォローを「嫌味っぽい」と見る視聴者も少し前までの筆者を含めていますが、親切心によるフォローでしょう。 倫子はまひろよりも年上であり、二人は遠い親戚関係にあります。彼女は父・雅信からも母・穆子(石野真子)からも愛されており、家庭内も穏やかです。また、雅信は当時の貴族の例にもれず権力拡大に関心を抱いているものの、「私は右大臣のあのガツガツしたふうが何より嫌なのだ」と過去に述べていたように、実権を握るためなら厭うことはない藤原兼家(段田安則)とは異なるタイプです。 そもそも裏があるのは、まひろの方。父からの言いつけといえども、まひろは左大臣家の動きを探るために倫子のサロンに入りました。本放送では、倫子は「でもこちらにはいらしてね 息抜きにはいいところでしょう?」とまひろに声をかけていましたが、まひろのサロン参加の目的やきっかけを知ったらショックを受けるはず。 とはいえ、視聴者が倫子を腹黒と勘繰ることは興味深いことです。純粋な姫さえも疑いの目で見られることに、平安時代のホンネとタテマエ社会の根深さを感じられます。