まるで火事か戦闘か…マレーシアの猛烈「蚊対策」 背景にある“感染疾患” 夏休み海外旅行では注意を
外国に住んで、母国の良さを再認識することもあれば、その国の文化・習慣が母国にもあればと感じることもあるでしょう。このコラムでは、元新聞記者で、現在二児の母としてマレーシアで暮らす斉藤絵美さんが、現地での出来事について紹介します。夏本番を迎え、今回は日本では考えられない、南国での大規模な「蚊対策」を取り上げます。 【写真4枚】まるで火事か戦闘シーン!あまりに激しいマレーシアの「蚊対策」 ☆☆☆☆☆ 連日暑い日が続いていますが、夏真っ盛りになると、どこからともなく聞こえてくる「プーン」という不快な蚊の羽音……。嫌ですよね。日本では古来、蚊帳を吊ったり線香を炊いたりして、蚊を寄せ付けないように工夫をしてきましたが、今も外出時に虫除けスプレーやパッチで予防措置を取るなど、蚊との攻防は続いています。 雨が多く常夏のマレーシアでは、年中蚊が発生しやすい環境にあります。そして、日本よりも蚊に対して注意を払わなければいけない大きな理由があります。蚊を介した伝染病「デング熱」の頻繁な流行です。 厚生労働省のホームページによると、デング熱はデングウイルスによる感染症で、ネッタイシマカやヒトスジシマカ(ヤブ蚊)などの蚊に刺されることで感染します。2~14日の潜伏期間後、突然の発熱で発症し、激しい頭痛、関節痛、発疹などが現れます。死に至るケースが少ない感染症ですが、血小板が低下し出血を起こしやすくなり、重症化すれば命を落とすこともあります。2017年には、マレーシア国内に暮らしていた30代の日本人女性がデング熱に感染し、亡くなりました。 また、今年に入ってから世界で大流行の兆しがあり、2024年の患者数はすでに1000万人を超えました。年間患者数が過去最悪だった2023年(約630万人)を、既に大きく上回ったという報道もありました。アメリカ疾病予防管理センターによると、マレーシアは、デング熱の感染頻度が最も高い国の一つとされています。 そのため、‟蚊対策“の深刻さは日本の比ではありません。そのうちの一つに、「フォギング」という手法があります。ペストコントロールとも呼ばれる、殺虫剤を散布する行為です。私たちのコンドミニアムでは約2週間ごとにフォギングが行われます。あたりに広がりながらモクモクと立ち上る白煙は、遠目で見るとまさに火事のよう……。 「ブーン、ブーン」と大きな音を立てる送風機のような機械を担いで、口のあたりをタオルや専用のマスクで覆った男性スタッフが、大量の白い煙を撒き散らしていきます。スタッフが前を通ると一瞬にして、辺りは白一色の世界に。これで感染を抑えられるのであれば大変ありがたいことなのですが、移住して初めて遭遇した時は、何事か?と恐怖を感じました。 運悪く散布の時間帯に遭遇してしまうと、身をかがめても視界が確保しにくく、人間には害がないと聞いていますが、薬品のようなきつい匂いに喉がやられそうになります。 基本的に私の暮らすコンドミニアムでは、建物の周辺の庭や駐車場など屋外の共用部分に限って薬品散布が行われますが、煙の量が多い日は、低層階であれば窓からも部屋に煙が入ってきます。そのため、フォギングのある日が知らされている場合、事前に洗濯物を取り入れたり、家中の窓を閉めたりする家庭もあるそうです。 こんな大仰なことをしても、周りでは感染者がちらほらと出ています。デング熱には特効薬はなく、日本国内では予防するワクチンもありません。夏休みに海外旅行を計画している人もいるかと思いますが、特に南米や東南アジアなどデング熱の感染リスクが高い地域に渡航する予定の人は、蚊対策もお忘れなく。 (文・写真=斉藤絵美)
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