高橋文哉&田中圭、『あの人が消えた』は“制約があるようでない”作品 「声のトーン一つでも選択肢が無数にありました」
■“人によって芝居を変える” 高橋文哉が挑戦した新境地
――『あの人が消えた』の現場においても、お二人それぞれが事前に抱いていたイメージと異なる部分を現場で調整していったと伺いました。そういった意味では予想外の作品でしたか? 高橋:そう思います。現場で何を言われても全部吸収して全部表せるように、自分も役も柔軟な状態で臨んでいました。「丸子がこういう役だからこうしよう」というような、確固たるものを持ちすぎないようにしていました。 田中:水野監督が脚本も書かれていますし、現場の雰囲気や演出、完成作を拝見しても監督の味付けや、やりたいことが詰め込まれているように感じました。台本を読んだときは、シーンにおいても現場の雰囲気においても、想像できるシチュエーションが無限にありすぎて実際に参加するまでどんな現場か分かりませんでしたし、どういうシーンになるかも分かりませんでした。詰め込まれているのに、ものすごく振り幅がある“自由に演じられる”本でした。僕の役もそうですが、皆さんも多分どう演じてもいいくらい、制約があるようでない作品でした。 高橋:確かに、幅広いですね。 田中:その中で水野監督が、とても丁寧に皆さんにポイントを提示して、演出をつけていくんです。そのため個人的な感覚としては「まんまとしてやられた!」と感じました。 高橋:どう表現するのか、いくらでもやりようがあるなと思いました。丸子を演じるうえでは、マンションを回りながらその一つ一つに柔軟に対応していくなかで人物像が出てくれば、と考えていました。クランクインの日も、様々な住人の部屋の前でチャイムを押して、いろいろな人と話したり電話したり走ったり――この作品の中で、丸子は最も多くの人と関わる人物です。様々な人に流されながらも自分なりの正解を見つけていくような人間性を出せたらと思いつつ、個性豊かな皆さんとご一緒していました。 ――高橋さんの初日は、袴田吉彦さんとの共演だったそうですね。 高橋:はい。ご一緒して「パワーがあるな。これは負けるな!」と思いました(笑)。 田中:袴田さんはパワフルだよね。 高橋:袴田さんが演じる沼田への丸子としての印象も、お芝居に生かしていきました。例えば、沼田の家のチャイムを押すときは一瞬「ふぅっ」と息をついて覚悟を決めてからやってみたり、坂井真紀さんが演じるおしゃべりな住人・長谷部の前ではいつも通りフラットに接しつつ、次の配達に遅れないようにちらちら時計を見るアクションを足してみたり…。そうした細かいところを一つ一つ試して、人によってお芝居を変えるのは初めての感覚で、楽しかったです。