重要ポストの傾向に「疑問符がつく」 悲劇を繰り返さないために…Jクラブが抱える組織課題【インタビュー】
GMと特色あるクラブづくり
そこで、大松氏が重要性を指摘するクラブ内のポストが「ゼネラルマネージャー(GM)」だ。チーム方針にはじまり、選手獲得や人材の採用・解雇など多岐にわたる決定権を持つ管理職。「今のJクラブでGMにキラリと光る存在は見当たらないかもしれない」と大松氏は率直な印象を明かす。 Jリーグが歴史を紡いできたことで、近年は選手出身のGMも活躍するようになってきた。しかし、そうしたケースに「疑問符がつきます」と大松氏。懸念を抱く根拠はこうだ。 「立ち位置が少しサッカーに偏りすぎているのではないかという気がしています。事業まで深く理解できているのか……。GMは競技と経営の両面をバランス良く理解している必要がある役職で、その下にクラブの考えを上手く展開できる強化担当者やマネタイズに秀でた営業担当者などが配置されなければいけません。あくまでそうしたプロを束ねる立場です」 日本プロサッカー界における課題は組織体系だけなのか。大松氏はJ2のいわきFCを例に挙げ、特色あるクラブづくりの必要性を主張する。 「このクラブがユニークなのは、クラブビジョンの1つに『いわきを東北一の都市にする』を掲げ、街づくりや人づくりを出発点としたことです。このような特色あるコンセプトのJクラブはまだ少ない。それゆえに、いわきが斬新に映るわけです。Jリーグにはもっとこういうクラブがあっていいのではないでしょうか。 とはいえ、一番の問題はマネタイズです。なので、こうした個性あるクラブが存続していくためにも、景気に大きく左右されない経営基盤の整備が求められます」
Jクラブ関係者へ「たゆまぬ努力を積み重ねていってほしい」
日本スポーツ文化の豊かな醸成を目指し、百年構想を掲げるJリーグ。ただ、その歴史はまだ3分の1にも満たない。次の30年、そして100年へどのような未来に進むべきなのか。「欧州の長い歴史を持つクラブに憧れがあります」と大松氏。思い描く理想をこう語る。 「欧州では本当に土着というか、クラブがその町の誇れるシンボルのようになっている。Jリーグクラブもそういう存在になるために何をするべきか、運営に携わる人には突き詰めて考えてほしいですし、たゆまぬ努力を積み重ねていってほしいですね。 私はクラブが消滅するという非常に寂しい思いをしました。これだけは本当にあってはならないと未だに思っています。フリューゲルスの悲劇は二度と起こしてはいけません」 今年で31年を迎えたJリーグで起きた唯一のクラブ消滅。代表チームを含めこの国のサッカーは右肩上がりの成長を続けているが、時にこうした負の歴史にも目を向け、今一度置かれている立ち位置や進もうとする先へ思いを巡らせることが重要ではないだろうか。 [プロフィール] 大松暢(おおまつ・とおる)/1962年生まれ、東京都出身。現役時代は筑波大学蹴球部の出身で、85年から90年までJSLの東芝でFWとしてプレーした。引退後に佐藤工業株式会社へ入社、出向先の全日空スポーツで横浜フリューゲスの立ち上げに関わり、チーム統括マネージャー、ホームタウン営業課長などを歴任。2003年から有限会社シュートで木村和司氏のマネージャーやさまざまなサッカー事業に携わり、2011年に佐藤鉄工へ転職し東京営業所鉄構営業部長を務めた。現在は富山銀行にて参与・ビジネスソリューション担当部長を務める傍ら、NPO法人「富山スポーツコミュニケーションズ(TSC)」会長として県内の生涯スポーツ普及などに取り組んでいる。
FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi