黒柳徹子「1日分の食べものは15つぶの大豆だけ」。空腹と悲しみの中、避難した防空壕でトットが考えていたこと
◆あっという間に消えてしまった 「15つぶかあ。じゃあ朝は3つぶにしよう」 そう決心して、学校に行く途中(とちゅう)にまず1つぶ食べた。 「ボリボリボリ」 奥歯(おくば)でかんでいると、1つぶめの大豆はあっという間に口の中から消えてしまった。それで2つぶめ。 「ボリボリボリ」 これもあっという間。気づいたら、もう1つぶ。 「あーあ。もう3つぶも食べちゃった」 学校に着いたトットは、ママに言われたとおりお水をたくさん飲んだ。 「さっき食べた大豆が、おなかの中で水をいっぱい吸ってふくらむんだわ」 トットは、おなかの中の様子を想像した。 「残りは12つぶかあ」 トットは、大豆の入った封筒をズボンのポケットにしまった。
◆空襲 授業を受けていると、お昼ごろに空襲(くうしゅう)警報のサイレンが鳴った。トットたちは、校庭のすみっこにある防空壕(ぼうくうごう)に避難(ひなん)した。 防空壕の入り口を閉めると、中はまっ暗になってしまう。最初のうちは体を丸めて息をひそめていたけど、なにもすることがないから、小さな声でお話をして時間をつぶした。 「アイスクリームを食べたことがある」とだれかが言って、トットも「私も」と言った。 なかなか警報解除のサイレンが鳴ってくれない。まっ暗な防空壕の中では、どうしても大豆のことを考えてしまう。 トットは我慢(がまん)ができなくなって、ポケットから封筒を取り出すと、一気に2つぶ、落とさないように注意しながら口にねじこんだ。 「ボリ、ボリボリ」 いますぐに、残りぜんぶを食べたくなった。でも、もしいまこれを食べてしまったら、家に帰ってから、なにも食べるものがなくなってしまう。 「がまん、がまん……」 そう思いながら、トットは考えた。 「私はいま、大豆を10つぶ持っている。ひょっとしたら、もうすぐ、この防空壕に爆弾(ばくだん)が落ちて、みんな死んでしまうかもしれない。だったら、いま食べたほうがいいかもしれない」 「でも、防空壕には爆弾が落ちなくても、家が空襲で焼けてしまって、帰ったらパパもママも死んでしまっているかもしれない。そうなったらどうしよう。やっぱり残りの10つぶは、いまのうちに食べてしまったほうがいいのかなあ」 ぐるぐる、ぐるぐる、いろんなことを考えていると、トットは悲しくなってきた。 「家が焼けていないといいけど」 そう思いながら2つぶ食べた。
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