伊藤美誠は泣きながら母に伝えた「卓球が嫌になった状態でやめたくない」 五輪選考レースが終わった今だから明かせる当時の思い、そして世界ランク1位へ新たな挑戦
2021年の東京五輪の卓球で金銀銅メダルを獲得した伊藤美誠選手(スターツ所属)は1月まで約2年間続いた代表争いの末、パリ五輪出場を逃した。3月3日に共同通信のインタビューに応じ、引退がよぎる中で臨んだ五輪選考レースや、新たな目標に掲げた世界ランキング1位への思いを語った。(共同通信=大島優迪) 【写真】伊藤美誠、平野美宇、早田ひな 勝利し笑顔
▽「あれだけやっても銅メダル」五輪シングルスに挫折感 新型コロナウイルス禍により1年延期で開催された東京五輪。水谷隼選手と組んだ混合ダブルスで日本卓球界初の金メダル、女子団体は銀、シングルスでは日本女子初のメダルとなる銅を獲得した。華々しい功績だが、本人の胸中は違った。 「(東京五輪前は周囲が)『この子、もうすぐ死ぬんじゃないか』というくらいまで練習していた。若干、狂っているというか。そこまでできたのも五輪で金メダルを本当に取りたい思いがあったから」 「だからこそ金銀銅を取れたけど、あそこまでやってシングルスで銅だった。悔しさしかなかった。あれだけやって銅だったら、どれだけやっても金を取れないと思ってしまった。銅を取って良かったこともありながら、悔しい気持ちの方があった。銅を取ったのに挫折したみたいな」 「ミックスで金を取った時はすごくうれしかったけど、(大会前の時点での感触は)シングルスは銅が当たり前で、いって金。(結果としてシングルスは銅メダルとなり)当たり前のことをやり遂げた感じ」
「自分に少し厳しかった部分もある。それぐらい厳しかったから東京五輪までの道のりをやり遂げられた。でも逆に言えば、その後がつらかった。そこまでしても銅となったから『それ以上にやらなきゃいけない』とか『環境を変えないといけない』と思った」 ▽「練習しても魂がない」五輪に向けた準備ができていなかった 満足に休めないまま、2021年11月の世界選手権個人戦(米ヒューストン)に向けた練習を始めた。しかし「それ以上にやらなきゃ」という思いとは裏腹に身が入らなかった。 「やってもやっても上達しない。魂がないというか。体が勝手に動いているけど、魂がないから練習をやっているのにボロボロ。世界選手権の時に『やっても無駄かな』と感じてしまった。そこから、いろいろ考えることがあり『今、楽しくないな』と思った」 2022年1月の全日本選手権では3大会ぶり3度目の優勝。2022年3月の国内選考会から始まったパリ五輪のシングルス代表2枠を争う選考レースへ、視界良好に見えたが、心身とも疲弊していた。