桐生祥秀が日本選手権で見せた成長の跡
6月8日まで福島市で開催された日本陸上競技選手権。注目された桐生祥秀が見せてくれたのは強さだった。5月17日の関東インカレで10秒05を出して優勝すると、19日には日本を出発してアメリカへ渡り、24日からバハマで行われた世界リレー選手権に出場して来年の世界選手権出場権を獲得する5位入賞に貢献。28日に帰国してから1週間強で日本選手権を迎えるスケジュールだった。レースだけではなく長距離移動や時差もあり、疲労が残る中での大会だったのだ。 しかもレースは雨の中という条件。それでも予選では「スタートは少し遅れてもしかたないと思っていたけど、少し加速した地点からリラックスして走ることを意識した」という走りながら、追い風1・4mの条件で10秒15の好タイムを出した。所属する東洋大の土江寛裕コーチは「バハマから帰国してから練習できたのは数日間しかなくて、スタートの確認ができなかったというのが正直なところ。それでもスタートからゴールまで一定の余裕を持って走って10秒15というのは、彼の持っているポテンシャルの高さを改めて感じさせるもの。桐生とは準決勝、決勝と上げていけばいいタイムを出せるのでは、と話しました」と言う。 だが翌日も雨。準決勝は向かい風0・5mで10秒21と、まずまずの結果を残したが、決勝は急に雨足が強まってくる中のレースに。日本選手権特有の緊張感もある中、予選は10秒27だったライバルの山縣亮太も、準決勝では追い風0・8mで10秒22と仕上げてきていたのだ。 悪条件の中のレースは混戦になった。「スタートうまくいったと思うけど、山縣さんがスタートで前にいることは想定して臨んだので力むことは無かった。でもそこからは考える暇もなくゴールへ向かっていった だけで、どういうレースだったかまったく覚えていないんです」という桐生はスタートで隣の山縣にリードされた。横一線になった中から40m過ぎには抜け出したが、日本選手権決勝の緊張感からかいつものように他の選手を一気には突き放せない走り。追い風0・6mの中10秒22でゴールしたが、山縣も0秒05差の10秒27と 粘ったのだ。